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連載小説

連載小説=移り住みし者たち=麻野 涼=第40回

ニッケイ新聞 2013年3月26日 「そうたい。勇作が泣きながら、わしらの家に助けを求めて走ってきよった。『おばちゃん、父ちゃんな助けてくれ』と、それは子供ながらもの凄い形相だった。飛んでいったが、そん時はもう手遅れで、勇作の親父は冷たくなっとった。それでも勇作は親父を助けられると思ったのか、必死になって親父の体を持ち上げて、首 ...

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連載小説=移り住みし者たち=麻野 涼=第39回

ニッケイ新聞 2013年3月23日 「父ちゃん、もう起きんね。珍しいお客さんがきとっとよ」 「ああ、うるさか。どげんした」 「お客さんがきとっと」  声は筒抜けだった。 「昔はあんな親父ではなかったんですが、いろいろあって……」  折原が口を濁した。児玉はそんなことよりも、母親が言った言葉に面食らっていた。 「勇作の父親は自殺し ...

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連載小説=移り住みし者たち=麻野 涼=第38回

ニッケイ新聞 2013年3月22日 「私の後をついてきて下さい。二十分もかかりません」  折原のトラックは長年乗っているのか、バンパーもなく、ボンネットはあちこちがさびついていた。おまけに運転席の窓もガラスがなかった。荷台には野菜などを市場に運ぶための木箱がいくつも積まれていた。  トラックは真っ黒な排気ガスを吐き出しながら、石 ...

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連載小説=移り住みし者たち=麻野 涼=第37回

ニッケイ新聞 2013年3月21日  高崎は一瞬怪訝な表情を見せたが、すぐに温厚そうな会長の顔に戻った。 「折原の親父さんはまだ来ていないが、長男がどこかにいたな……」  会長は広い会場を見回した。相手はすぐに見つかった。「あそこにいた」と一人つぶやき、「折原君、ちょっと」と、会場に響き渡る大声で呼んだ。  その声に畑からそのま ...

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連載小説=移り住みし者たち=麻野 涼=第36回

ニッケイ新聞 2013年3月20日  フスキンニャはアチバイアで高速道路を下りた。車は大きく楕円を描くインターチェンジから市内に向かって走り続けた。サンパウロに来てから取材先と言えば、在サンパウロ日本総領事館、移民の送り出し機関でもある国際協力事業団サンパウロ支部、それに日系社会最大の組織である日伯文化協会、日系人の医療、福祉を ...

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連載小説=移り住みし者たち=麻野 涼=第35回

ニッケイ新聞 2013年3月19日  アントニオはサンバのテープを慣れた手つきでカセットデッキに差し込むと、ボリュームをいっぱいにしてかけた。安物のスピーカーのためか音が割れたが、それでもボリュームを下げる様子もなく、後ろに乗っている児玉に気を遣う気配もまったくない。  たとえ注意をしたところで、ブラジル人が素直に音量を下げない ...

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連載小説=移り住みし者たち=麻野 涼=第34回

ニッケイ新聞 2013年3月16日  こんなやりとりをしたのもわずか一年前のことだった。例の事件があってから初めて会っているのだ。喘ぐような息遣いで佐織が聞いた。「お話ってなんでしょうか」 「もちろん俺たち二人のことだ。今のままでは俺の気持ちも整理がつかないし、それは君も同じだと思うけど」  佐織は何も答えなかった。俯いたままカ ...

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連載小説=移り住みし者たち=麻野 涼=第33回

ニッケイ新聞 2013年3月15日  その数日後、応募用紙をもらいに小宮は国際協力事業団本部に行った。応募用紙は窓口ですぐにもらうことができたが、小宮はそこで移民募集のポスターを見たのだ。係りの者が差し出す応募用紙を受けとると聞いた。 「移民の応募用紙もいただけますか」 「移住関係はセクションが違うので、そちらの方へ回ってくれま ...

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連載小説=移り住みし者たち=麻野 涼=第32回

ニッケイ新聞 2013年3月14日  小宮は単刀直入に訪問の理由を両親に告げた。 「何故、結婚を許してくれないのですか。私が被差別部落の出身だからですか。部落だと何故、いけないのですか」  小宮は冷静に感情を抑制した声で聞いた。だが視線は武政太一を鋭く睨みすえたままで、目は怒りに燃えていた。  武政もまた小宮の視線に身動ぎもせず ...

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連載小説=移り住みし者たち=麻野 涼=第31回

ニッケイ新聞 2013年3月12日 「それでどうする気なんだ」 「説得します」佐織が今にも泣き出しそうな顔で答えた。 「自信はあるのか」 「説得してみないとわかりません」 「説得できなかった時はどうするんだ」  再び佐織は沈黙してしまった。こうしたカップルのほとんどが結婚には至らず別れてしまうケースを、小宮はどれほど見たり聞いた ...

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