「まあ、それだけ徳川幕府のあせりと、西洋から来たキリスト教という宗教に対する脅威は、普通ではなかったということね。 ただ、一方で、そこまで根深く広がってしまったキリスト教を、そんなに易々と絶やすわけにはいかなかったのも事実ね。これに対するキリスト教の信者たちの抵抗は、幕府が予期していなかったほどの激しさだったから、この問題はま ...
続きを読む »連載小説
中島宏著『クリスト・レイ』第37話
「そのポルトガルの日本での勢力が弱くなったことと、キリスト教への弾圧が始まっていったこととは、どこでどう結びついているのですか。簡単に考えると、そこにはあまり直接的な関係はないようにも見えるけど」 「西洋の文明を初めて日本に運んできたのはポルトガルだったけど、最初は独占するようにして日本との商取引を進め、巨大な利益を上げたわけね ...
続きを読む »中島宏著『クリスト・レイ』第36話
「あら、そういうふうに言ってもらうと、私も嬉しくなるわ。じゃあね、マルコスにもできるだけ分かるように説明していくわね。でも、分からないところがあったら遠慮しないで質問してもらって結構よ。私だって歴史の先生というわけじゃありませんからね。まあ、適当に私のやり方で説明していくことにするわ。 さっきの織田信長の話なんだけど、戦国時代 ...
続きを読む »中島宏著『クリスト・レイ』第35話
「この前も話したと思うけど、イエズス会の重要なメンバーでもあったフランシスコ・ザビエルが、宣教師として初めて日本を訪れて布教を始めたのが十六世紀半ば辺りだったけど、彼だけでなく、その後ポルトガルから何人かの宣教師たちが日本に派遣されたわ。 そのお陰で、それまでキリスト教というものが存在しなかった日本に、半世紀ほどの間に瞬く間に ...
続きを読む »中島宏著『クリスト・レイ』第34話
そういうマルコスに対してアヤが好意を持ったのは、彼女自身にも性格的にそのような傾向を持っているという点に繋がっているようでもあった。要するに、二人の間には共通する波長を感じ取ることができたということのようである。そのことが、お互いを引き寄せ合ったということでもあった。無論、それは最初から感じられたものではなく、時間をかけること ...
続きを読む »中島宏著『クリスト・レイ』第33話
たしかに、最初はこの教会の異様さに驚いて、それを調べてみようという動機があったのだが、それがいつの間にかアヤを通じた形のものに変わって行き、やがて、その背景の探求も、知らぬ間にアヤを中心とするものに変わっていったのである。 いつの頃からそのような変化を見せるようになっていったのかは、マルコス自身、はっきりした記憶はない。ただ ...
続きを読む »中島宏著『クリスト・レイ』第32話
都会に出て、別の可能性を試してみるというのも大きな魅力ですが、どうも今まで考えてみたところでは、僕にとってはやはり、牧場経営に入っていった方が向いているのではないかということですね。父がやってきたことを継承していくのが、息子としては一番いいのではないかとも考えています。僕は長男で、しかも一人息子ということもあって、どうしてもそ ...
続きを読む »中島宏著『クリスト・レイ』第31話
自分を叱咤するように、頭の中で別のマルコスが声を励ます。 (そうだ、今はそんな不謹慎なことを考えている場合ではないんだ。純粋に教会のことだけを話していればいいんだ) ふっと、我に返るようにして、マルコスは、現実の世界に引き戻された。 「あら、マルコス、急に黙ってしまったわね。さっきから私、あなたに質問しているけど一向に返事が ...
続きを読む »中島宏著『クリスト・レイ』第30話
澄んだ空気の中を歩きながら、二人ともが、かなり高揚した気分を味わっている。 話は、クリスト・レイ教会にまつわるものだから、当然、宗教の問題になっていくけれど、そのことがマルコスにとっては新鮮なものに映っている。彼自身、普段はこのような話をする機会などない。宗教についても、特に深く考えたこともなく、それについて誰かと真剣に議論 ...
続きを読む »中島宏著『クリスト・レイ』第29話
「その辺に、クリスト・レイ教会の持つ特殊性があるの。 確かに、イエズス会に繋がったカトリックの教会には違いないけど、はっきりいって私たちの教会は、その歴史的な背景が特別のものを持っているから、こちらのブラジルのカトリックの教会とは異質ということになるわね。 同じキリスト教だから、あるいはカトリックだから、変わらないではないか ...
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