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連載小説

臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(136)

 そして、日本政府高官らの日本への引き揚げについて批判している。「戦時中はどのように行動すべきか、また、おこりうる虐待、困難に対しどう対処するか、政府代表者はブラジル在住の同胞を正しく導く義務があった。にもかかわらず、意味もない通達だけ残して、引き上げてしまった。もし、昔の武士のような人間だったら、帰国命令を受けたら、即座に退職 ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(135)

 「臣道聯盟」の創立についてはいろいろな説がある。  サンパウロ中央警察保護局のアルフレッド・アシース局長によると、「臣道聯盟」の前身は「謡同好会」で、この会は吉川退役中佐の案で1946年2月11日に発足した。「臣道聯盟」の創立者のひとりで、徳島県出身、サンパウロ市カラムル街1069番在住、当時64歳の根来良太郎氏によると194 ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(134)

 警察は他にも秘密あるいは不法団体が存在することを知ったが、多くの情報を得ることはできなかった。そのなかにアルバレス・マッシャドやプレジデンテ・プルデンテ付近に存在する「愛国連合日本人会」があった。また、「愛国同心会」もあったが、その会についてはDOPS局長はなにもふれていない。  その他、協同組合員を国粋主義にしたて、勝ち組に ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(133)

 戦後数か月たったころ、日系社会の殺人者、テロ実行者、不法団体のメンバーの訴訟提起を指揮したDOPS(サンパウロ州警察社会保安局)の局長、ジェラウド・カルドーゾ・ド・メーロは、「ブラシル在住の大半の日本人は日本は戦争に負けなかった。中でも過激な国粋主義の日本人(日経コロニアの80%を占める)は降伏があったのは確かだが、日本側の有 ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(132)

 1945年6月6日、沖縄戦がアメリカ軍の勝利におわり、ブラジルは日本との開戦を発表した。奇妙な言葉や習慣をもつ日本人はブラジル人の敵となったのだ。路上でのいやがらせが始まり、特に敗戦がわかってから、それが顕著になった。  「ジャポンが戦争に勝ったのなら、どうしてあっちに帰らないんだ」とブラジル人は日本人のおかしな発音をまねして ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(131)

 日本政府からの返答を得られず、アメリカのトルーマン大統領は秘密に開発してきた爆弾の投下を許可した。沖縄での戦闘を今後くり返せば、100万人以上のアメリカ兵が犠牲となると考えて、日本本土への攻撃に対し「日本の端から端までを沖縄戦のような目に合わせたくない」といったそうだ。  1945年8月6日、午前2時45分、ポール・W・チベッ ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(130)

 6月はじめ、アメリカ軍は牛島が設定した防衛線を突破、島の南方に前進した。彼らは正輝が生まれた新城や房子が生まれた玻名城の近くを通って具志頭に侵入した。  日本軍の抵抗は皆無といえた。降伏することは軍人の恥とみなされ、とくに上位の軍人ほどそう思っていた。敗北がはっきりしたとき、牛島中将と上官の張勇参謀長は割腹自殺した。何百人もの ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(129)

 1944年10月10日、正輝夫婦の次女、ヨシコが生まれる何週間か前、沖縄の中心市街地、那覇がアメリカ軍に猛烈な爆撃を受けた。5回にわたる襲撃だった。アメリカ軍は太平洋を日本の南と東、つまり、2方に向けて航空母艦を進め沖縄に合流し、その母艦から飛び立った戦闘機で襲撃したのだ。  中国奥地の基地から飛び立った200機にもおよぶ戦闘 ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(128)

 日本政府のプロジェットは「八紘一宇」という名のもとに日本一国が世界を司る。「八紘一宇」が実現した暁には世界に平和をもたらすことを彼らは認識していた。  グループが手にする情報は軍事政権の公式発表で、太平洋や他の地域の敵軍の勝利や連合軍の進出はすべて隠蔽されていた。だから、彼らが頭にえがく様相は現実と全くかけ離れたものだ。太平洋 ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(127)

 隙間から小鳥が逃げないよう細心の注意を払って手を突っこみ捕まえる。そのあとニコリと微笑む。彼のいちばん気に入りの小鳥の種類はサビア、ズキンマヒワ、キンノジコ(カナリアの一種)テイエテ、アメリカウズラバトなどのように鳴き声のいい小鳥だった。  まだ、幼いのに、小鳥の種類を見分けた。兄や隣の家族の子どもに教えられていた。雄のテイエ ...

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