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連載小説

連載小説=臣民=――正輝、バンザイ――=保久原淳次ジョージ・原作=中田みちよ・古川恵子共訳= (64)

   ところがその結婚に問題が生じていた。そのことを妹に知らせるため、樽は自らサントスまで迎えにきたのだった。挨拶がすむと、本題に入った。  回りくどい話しはせず、事実だけを伝えた。幾三郎は親友で、りっぱな男だった。自分らと同じ、花城の大事なウンシマウチつまり、同郷者だった。房子と結婚することで、彼女にブラシルにわたる ...

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連載小説=臣民=――正輝、バンザイ――=保久原淳次ジョージ・原作=中田みちよ・古川恵子共訳= (63)

 神戸からの出港光景もちがっていた。1918年、保久原正輝を乗せた若狭丸が出港したときの、家族離別の暗さがなかった。房子が出発したときはまるでお祭りのような雰囲気だった。家族や友人は船中のキャビンまで付きそうことができた。はじめの汽笛が鳴ると見送りの人たちは船から降りた。波止場は人で埋めつくされ、みんな手を振り、デッキの旅立つ人 ...

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連載小説=臣民=――正輝、バンザイ――=保久原淳次ジョージ・原作=中田みちよ・古川恵子共訳= (62)

 一方、房子のほうは渡航に必要な書類を手にすることは容易ではなかった。  まず、結婚するための書類を用意するのに、何度もの手紙のやり取りが必要だった。当時は郵便事情がわるくものすごく時間がかかった。そして、全ての書類がそろったあと、名字を変更する作業がのこった。  沖縄で我如古ウザと登録した。書類は全部我如古ウザの名でなくてはな ...

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連載小説=臣民=――正輝、バンザイ――=保久原淳次ジョージ・原作=中田みちよ・古川恵子共訳=(61)

   なぜなら、村には何人ものカマグワァーがいて、他の場所の者との間でまちがいがおきる。そこで、名前の前に名字をつけるようにした。二人を間違えないよう、フサコや親類の者たちは母をイイムイカマーと呼ぶようにした。彼女は一生この名で呼ばれた。むすめのカマーが結婚して名字が変わってからもである。  保久原家の一部が沖縄の外に ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(60)

 そこで1928年、内務省の社会局は法令1229により新しい収容所を建設した。以前より広くモダンで居ここちよく、身体検査や予防注射もスムーズにできる場所になり、指導や訓示も与えやすかった。コンクリートの五階建てのりっぱな建物で、600人が収容できた。さらに、1930年には増築され1300人まで収容可能になった。  日本の家族から ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(59)

 沖縄の状況も似たようなものだった。1920年前半、つまり、大正時代(1912─1926)の末期に、砂糖の生産量は1888年に比較し10倍になっていたが、価格は大きく低下し、その結果、その後、沖縄の海外貿易は赤字をつづけ1924年の340万円が、1927年には810万円の赤字に膨らんでいた。わずか3年間で二倍以上になったのだ。1 ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(58)

 正輝は日本語独特の的確でぴったりあった感情や状態を表す繊細な表現を、しだいにしなくなりはじめていることがつらかった。形容詞の「暑い」と「寒い」の間をあらわす「暖かい」、「涼しい」。同じように「明るい」と「暗い」の間をあらわす「うす明るい」「うす暗い」。そんな言葉を使わなくなっていた。菓子や食べ物につかう「甘みがある」「味がうす ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(57)

 正輝はたまに近所のヨーロッパ系移民の家によばれると、日本人移民のあまりにも質素で、文化度の低い家を思い、やりきれなかった。家の外観はほとんど同じだ。天井はたいていむき出しの屋根瓦、土間の床、レンガの壁の家だった。  しかし、ガイジン(当時、日系以外の者に対して使われた言葉)の家の応接間のテーブルはきちんとしていた。粗末だがテー ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(56)

 その年はまだ日が出ない暗いうちから、夜、闇に包まれ何も見えなくなるまで、みんな懸命に働いた。雨が棉の大敵だから急いで摘まなければならず、昼食の時間もなかった。そんなに懸命に働かねばならなかったのかというと、雨との競争だったからだ。収穫物の全部を失うことになりかねない。  次の収穫期には経済状態が少し楽になり、その時期に日雇い労 ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(55)

 こうして、グアタパラ耕地で知りあった者たちが、チエテ川から少し北にいったタバチンガで再び生活を共にすることになった。  当時、その地帯では主に棉が栽培されており、彼らも棉栽培にとり組んだ。パウケイマダ耕地の土地を借りた。稲嶺盛一が選んだ土地は森林を伐採し、切り株を堀りだし、そのあと、ラバが引くスキで耕さなければならなかった。痩 ...

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