連載小説
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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(54)
こうして、彼らは別の道を歩むことになった。 正輝は父親と同年輩の移民のやさしい家族に迎えられた。名前を稲嶺盛一といい、妻は沖縄でよく使われるウマニーという愛称でよばれていた。彼女は正輝を自分の息子
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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(53)
生活費を稼ぐために、請負人はコーヒー栽培の合間に米とフェイジョン豆の間作がゆるされ、収穫物は彼らのものになるのだった。また、最初に収穫されたコーヒーも彼らがうけとった。請負期間がすむと、契約金をうけ
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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(52)
サン・マルチニョ耕地から脱走したいきさつもあり、それだけの金を貯めることなどできなかったのだ。樽の家族は経済や財政に関してはまるで無能な遺伝子が受け継がれているようにみえる。1910年後半から193
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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(51)
樽、ウシ、正輝が沖縄をあとにしてから、忠道は生きる意欲をすっかり失ったとのことだった。借金の返済もできず、競馬にうつつをぬかしたことで家が破綻し、結婚したばかりの弟、その妻、そして自分の次男を遠いブ
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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(50)
糸巻きにする木は、ねじりに強い木でなくてはならず、そのような特殊な木は容易にみつからない。沖縄人はブラジルにある木で最もその性質のあるのはコショウボクだと気付いた。正輝がブラジルではじめて目にした三
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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(49)
正輝が興味を示したのは、哲学、歴史、政治、特に最近の日本の政治に関する記事だった。みんなが読み終わった本は彼が保管できるように願いでて、自分自身のために図書箱をつくろうとした。家の食堂と居間に本をお
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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(48)
「仕事中、ふつうの休み時間より長く休むことで、この先も働きつづけられる。これは竹がしなって、強風をしのぎ、そのあと、すぐに、もとどおり真っすぐ立ち直る。それと同じことじゃないか?」 習慣、目的、文化
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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(47)
日本人は苦境にあるとき、「がんばれ!」という励しの言葉をかける。たとえば、マラソンなどで選手が苦境に立つと、まわりの者が「がんばれ」とさけんで選手を励ます。苦しみながらコースを走っている選手に、疲れ
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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(46)
「以テ天壌無窮ノ皇運ヲ扶翼スベシ」という箇所の響きが気に入って、ここは特に気持ちをこめて暗誦した。意味がわかったわけではない。 「天壌無窮」とは何のことだろうと自問したが、その答えは得られなかった。
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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(45)
いくつかの結婚式の料理がつくられた。新郎の父親は豚の半分を買い、それを煮たり、揚げたりして、いろいろな料理をつくった。そのほか、みんなが日常的に食べている料理もテーブルに並べられた。飲み物は、飲みつ