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連載小説

臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(44)

 樽が以前からグァタパラ耕地に入植している日本人に、団結の必要性を説きにいったおり、不意打ちをくった。 「すでに、準備中です」  樽と最初に話した男はこういったのだ。  移民同士の結びつきを強化することが日本人の大きな課題だった。共同体の強化はブラジルで生きる日本人には不可欠で、いま、その時をむかえている。樽には農園の日本人がシ ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(43)

 脱走の日、家族はまるで計画などしていないように、いつもの通り働いた。  けれども、きちんと計画はたてていた。打ち合わせていた行き先に着くため、どこで待ち合わせるか、ちゃんと決めていた。夜、日本からもってきたわずかな荷物をまとめた。もっていけないものは友だちにあげた。隣の日本人に別れの挨拶をし、歩きはじめた。長い距離を歩かなけれ ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(42)

『日本を出る移民は船賃やその他の経費の融資を受け、借金を抱えて渡伯した。外国では水でも汲むようにたやすく金が手に入ると聞いていたからだ。  移民たちは何ヵ月か働けば100円なり、200円なりの借金を返済できると考えたのだ。ところが、現実は逆で、儲けるどころか借金がどんどん膨らんでいったのだ。それに栄養不足や疲労困憊からくる絶望が ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(41)

 夕食は一日を無事に過ごしたことを話し合う大事なときなのだが、その晩、話題になったのは食事の質の悪さだった。三人が不慣れなせいもあったのだが、悪いことのすべてが食事のまずさに集中しているように感じたのだ。疲れきっていたから、間に合わせに作ったベッドは寝心地が最高だった。  暮らしは次の日も、そのまた次の日も、変わらなかった。けれ ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(40)

 日が昇りはじめると、――正輝には長い長い時間だった――少しだけ楽になった。  コーヒー樹の何本かは霜を受けず、さくらんぼのように実が赤くなり、樹全体が美しい一色に染まっていた。けれども赤い実にまじってまだ収穫期できない青い実の樹もあった。もっとも、採集者には赤も緑も関係なかった。  各自が家からもってきた巾2メートル長さ4メー ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(39)

 もっとも、正輝はこれらの作業をほんの一日で覚えてしまった。保久原家の本格的なコーヒー畑の仕事はいよいよ明日から始まる。  カンカンと耳障りで、しつっこい鐘の音で起こされた。時計はなかったが、早朝であることはわかっていた。4時かそれとも5時か?、どっちにしても大差はない。まっ暗でいつもどおり寒かった。眠かったがどうしようもない。 ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(38)

 ウシが家を掃除するのにほうきを作ろうとしているあいだ、男二人は薪を探しにでかけた。そして、それまで気づかなかったのだが、家の後ろは下り坂で、川岸までいけることが分った。そこにはまだ原始林があった。コーヒーの海原に残されたわずかな自然林だ。そこで、何日か分の薪を手に入れることができた。  もう少し寝心地よいベッドにしようと考えた ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(37)

 当時の状況からして、情報が流布するのは困難なはずだが、しかし、サンパウロ州指折りの旧家だったサン・マルチニョ農園の主が、カンピーナス農務局が25日の明け方の最低気温がマイナス1・5度と記録していたことを知らないはずはなかった。(カンピーナスは正輝が汽車で通って強い印象を受けたジュンジアイの次に通った町だ)。ふつう成樹が耐えられ ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(36)

 断片的にせよ、故郷の新しい情報にはちがいない。以前からの入植者のなかに、保久原と村は違うが同じ地域の具志頭村(沖縄の方言でグシチャン)からきた新垣という男がいた。二人には共通の話題があり意気投合した。彼は樽にピンガという酒をすすめながら、「沖縄の泡盛に似ています。サトウキビからできる酒です」と説明した。  この出会いを喜んだの ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(35)

 樽叔父に収容所出発のとき配られたランチを食べてもいいか訊ね、いいぐあいに、荷物のなかに小刀があったので、パンを切り、モルタデラを何枚か挟んだ。臭いは強く、名前のように得体の知れない食べ物だった。  味見をしてみた。たしかに味は濃いが、考えてみるとパンによく合っておいしいのだった。もし、だれかに「この国で何がたべたいが?」ときか ...

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