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連載小説

臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(34)

 起きてから何時間かすると、正輝は昼ご飯を知らせる声を聞いた。収容所ではこれが初めてのきちんとした食事だった。いろいろ書きこんだ書類ができたあと、無料で食事することができる食券とよばれるチケットをもらった。 「どんな食べ物だろう?」 衛生的には満点だといえるだろう。 「従業員たちは毎日、医者の検査をうけ、食品の品質は同じように栄 ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(33)

 コーヒーは神戸で飲んだことがある。自分たちはこのコーヒーを収穫するためにブラジルにいくのではないか?と考えはするが好きにはなれなかった。収容所ではコーヒーが喉を通りやすいように砂糖をたくさん入れて甘くした。 「いったい、この飲み物を、他の人たちはどう思っているのだろう?」と疑問に思ったほどだ。  そのあと、移民たちはそれぞれの ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(32)

「ちょっと、見てくるよ」と叔父にいい、そこを離れて、そのスペースにむけて走った。左右をみると、長い広い廊下が目に入った。廊下の両側にはたくさんのドアがあり、その先に広いサロンがあった。何のために使われるのか、そのときはかいもく分からなかった。建物の奥に進むと、右と左に2階に上がる広い階段があった。  正輝の冒険はここから始まった ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(31)

 1912年、リオの公使館の通訳から通達を受けた日本政府も沖縄からの移民を禁止した。少しのちに政府はこれを見直し、ある条件のもとに、沖縄県からの移住を許可した。小学校を終了していること、40歳未満であること、標準語を話すこと(沖縄方言は他の日本人が解せなかった)、結婚生活を三年以上経ていること、家族に養子を加えないこと、女性は入 ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(30)

 こうして樽、ウシ、正輝は後に俗によばれる「構成家族」という形でやってきた。ブラジルの移民政策はこちらに腰かけ的なデカセギでではない永住する家族を優先するものだった。しかし、日本の習慣として長男は家からを出したくないという考えがあり、ごく一般的なかたちの家族移民はむずかしかった。また、移民してやってきた日本人には短期間に、できる ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(29)

 しかし、なによりも敬意を表されるのは、親の代であれ、子の代であれ長兄だった。標準語では長男、そして、沖縄の方言では嫡子とよばれる。日本の家族、そして沖縄の家族の家系の存続は彼らの双肩にかかっていた。長男が継いだ家の権利はその長男、そしてまたその長男が次々、引き継いでいく。習慣的に長男は生まれながらの後継者だということは議論の余 ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(28)

 興味深いことに、外交面で日本は30年間の二つの戦争に勝ったことで、他の強国と肩を並べるようになった。1914年8月3日にドイツがロシアとフランスに、そして、翌日、英国がドイツに宣戦布告したいわゆる第一次世界大戦に乗じて、日本はドイツにアジアの海洋から戦艦の退去を要求した。それを拒否された数日後、ドイツとの戦闘を決定した。  9 ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(27)

 その規則にそうために寺内正毅首相が音頭をとり、すでにサンパウロ政府と交渉中だった東洋移民会社と、当時活発に移民事業にとりくんでいた南米移民を合併し、海外興業株式会社(KKKK)を設立した。それは、日本が国家的事業としてブラジル移民をあつかいはじめた第一歩だった。それ以後、移民問題は政府が取り扱うことになった。  結果は目にみえ ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(26)

 そして1908年6月18日、笠戸丸がサントスに入港した。ブラジル初めての正式な移民が下船したのだ。781名の契約労働者と12人の自由渡航者だった。793人の先駆者のうち324人が沖縄出身だった。1914年まで9回にわたってサントスに着いている。総計1万4892人で、771人が沖縄生まれの人間である。  この陰には、移住事業を盛 ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(25)

 1883~1890年には36万7000人の百姓が税金の滞納で、土地を没収された。  1884~1886年には生産可能な農地の7分の1が抵当としてとりあげられた。  金持ち地主は競売により没収された土地を買占め、その地所を区画に分け、むかしの借地のような形で農産物を栽培させた。1883~1908年まで農産地の借地の率は37%から ...

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