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連載小説

どこから来たの=大門千夏=(95)

 四人で一〇分くらい歩くと大きなレストランに着いた。中はもうお客でいっぱい。よっぽど安くておいしい店にちがいない。  任せるからというと、三人でキャッキャッと騒ぎながら注文して、四人分がたくさんの大皿に山ほど盛られてきた。  私に気を遣いながら三人は目をキョロキョロさせて頬張る。若い人は気持ちいいなと思いながら私も食べた。トウモ ...

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どこから来たの=大門千夏=(94)

 「横に座っていいかしら」突然、片手に本を持った女学生が声をかけてきた。  ベンチの端に肩から荷物を下ろすと腰かけて、教科書をとりだして読み始めた。化粧気はなく黒い髪をまっすぐ長くのばし、日本人に良く似た顔。私の事が気になるらしい。  「中国人ですか?」  「いいえ、日本人よ」  「どこから来たの?」  「ブラジルからよ」  「 ...

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どこから来たの=大門千夏=(93)

 アステカのカレンダー・ストーン。本物を是非見たいものだ。私の心にこの思いがデンと居座ってしまった。  アステカの前に興隆したマヤ文明は、メキシコのユカタン半島を中心に栄えた。彼らは天体鏡も、望遠鏡も持っていなかったのに、太陽の動きばかりか、月の周期についても知りつくしていたし、肉眼では絶対見えない冥王星、海王星のことまで知って ...

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どこから来たの=大門千夏=(92)

 その時、フット気がついた。  おや! この人たち体臭がないではないか! こんなにたくさんのインド人が乗っている。この暑さ。この汗。  サンパウロではエレベーターに乗っていると、西洋人の体臭に気分を悪くすることが度々ある。どんなにシャワーを浴びても体の中から出てくる匂いはどうしようもない。 それなのに、このインド人達は不愉快なに ...

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どこから来たの=大門千夏=(91)

 なんともかんとも「ああ、これがインド」と了解する。  大方の労働者は貧しい。体型をみてもやせて痩せて、細い脚に皮膚が張り付いている「骨かわ筋衛門」ばかり。私も痩せてはいるが、ここにいると気にならない位、皆、脂肪も筋肉さえも見えないほど痩せている。  デーリーのような都会はまだしも、田舎に行くと太った人に出会うことはまずない。こ ...

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どこから来たの=大門千夏=(90)

 「ヨーロッパはどこの国が一番気に入ったの?」と聞くと「どこもかしこも美しい、きれい、清潔、豊か、金持ち、そして歴史があり文化あり教育あり総て言うことなし…と立て続けに言って…でも人間はどうなんだろう? しかし私はヨーロッパには住みたくない。……どうしてかしら?」と最後は独り言を言った。  別れ際「さようなら鈴木さん」というとび ...

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どこから来たの=大門千夏=(89)

 固太りの体格に厚かましい面構え、威張った歩きかた、長い髪をひっ詰めて頂上近くで丸めてヒモで括り、化粧気はなく、着ているものは「みんなもらいもの」という感じでチグハグ。この「おばさん」は五十歳くらいかな、と思っていると、すれ違いざまに「日本人の方ですか」と私に元気な声をかけてきた。そうですと言うと「やっぱりねー」あはははと人懐こ ...

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どこから来たの=大門千夏=(88)

 「エッ」吉田君はやっと真面目な顔になってきた。  「日本人学校は月謝が高いから近所のお坊さんに習ったといったけど、五〇〇ドルのルビーを買ってくれる親がいてどうして高いの? それにお坊様に習ったくらいでは、あれだけ日本語が流暢に話せるようにはならないわ、よーく考えてごらん。何もかもおかしいと思わない? あの封筒の中――あの中は本 ...

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どこから来たの=大門千夏=(87)

 私に買えなかったあのルビーを、この若い娘がつけてオートバイに乗って郵便局に向かう。朝っぱらから。なんだか小娘に馬鹿にされたような気分になる。これって嫉妬心かな?  しかしこの国で五〇〇ドルと言うと大変な金額である。私たちはこのサイカーの運転手を一日中雇って、自転車の主はその細い足で一日中ペダルをこいで四ドル。それでも彼はめった ...

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どこから来たの=大門千夏=(86)

 「お二人は観光ですか?」流暢な日本語で話しかけてきた。抑用にぎこちなさは全くない。  「ええ王宮を見に来ました」  「あら残念ですね、今、工事のために閉まっていますよ」首をちょっとかしげて気の毒そうに言う。  「いやァ、それは残念。工事はいつ終わるかな?」  「さァわかりませんね。何年もかかるでしょう」優しい笑顔で答える。   ...

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