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連載小説

どこから来たの=大門千夏=(75)

 「水代、一〇ドル! 二人で二〇ドル、それから、これに税金やらサービス料やら、二五%かかる」  「じゃあ二人で水だけで二五ドル。まさか!」二人で顔を見合わせた。  あわてて残った水をいじましくコップに注いだ。無理して飲んだ。こんな時、お生まれが判るのよね、と言いながらやっぱり飲んだ。残して立ち去ることがどうして出来ようか、できる ...

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どこから来たの=大門千夏=(74)

「貴女の応接間に飾ってあげてほしいんだけど」と言うと、女はキョトンとした顔をして、首を少しかしげてエッ?と言ったようだった。 「これはお母さんの心、お母さんの魂よ。売ったりしないで。……お母さんを思い出してあげて」と心をこめて言うと、女は眼を大きく見開いてじっと私を見つめて、それからしばらくして眉間に小さなしわを作って下を向いた ...

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どこから来たの=大門千夏=(73)

 こんなところに一人で住んでいた? しかしここまで黒くなるには少々の年月ではないはずだ。雨漏りだろうか、それとも水道管か。今までよくも漏電しなかったこと。  階段の白い大理石の手すりは壊れたままで、その大きな破片は黄褐色になって階段の下に転がっている。すぐ近くに住む娘は左官を呼んでやることも、電球一つ取り換えてあげることもしなか ...

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どこから来たの=大門千夏=(72)

 残されたコレクション  長らく雨の降らない日が続き、埃っぽく、喉はイガイガする、眼は赤くなる、こんな四月のある日、派手な服を着た、どこか落ち着きのないブラジル人女性が私の骨董店に入ってきた。  母親が二ヵ月前に亡くなったので品物を整理したい事、生前、コーヒーカップを何年もかけてコレクションしていたので、ものすごい数があるから買 ...

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どこから来たの=大門千夏=(71)

 急に胸の奥から申し訳ない気持ちが湧き起こってきた。ごめんなさいねと夫の写真に素直に謝った。夫にだけでは物足らず、神様ごめんなさい…思わず口に出して謝った。信心のないはずの私、神は病気の夫を助けてはくれなかった。役立たずの神は要らないし、居るはずもないと断言していた私が今初めて神に語りかけた。 「ごめんなさい。夫のせいではなく私 ...

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どこから来たの=大門千夏=(70)

 夫が亡くなって二年たった。一人で骨董屋を続けていた。  疲れ果てて旅から帰って来ると必ず何か問題がおこっている。  借家の事、商売の事、持っている土地の事、使用人の事、その上、日本にいる母の事まで、毎回毎回多いときは一〇個くらい問題が重なってやってくる。  あの日、飛行場に出迎えた娘は私の顔を見るや「すぐに決断しなくちゃいけな ...

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どこから来たの=大門千夏=(69)

「あーー夢に見たボンベイ!」と叫ぶとゲッチイは、「新婚旅行にボンベイに行ったのよあの二人…しかしすぐに破たんする。幸せとお金は関係ないわ」 「うう…んん。でもねェ幸せって言うのはやっぱり、お金があるってのは幸せってことだよね、それでも文句があるんだからねェ、不思議だよねェ」 「貧乏でも一生連れ添える人が側にいるのが一番いいのよ」 ...

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どこから来たの=大門千夏=(68)

 夕方パラチの別荘に着いた。外から見るとごく平凡な背の高いコンクリート塀があって、その真中に大きなペンキのまだらにはげおちた厚手の木製の二枚扉がある。青みがかったネズミ色の扉。しかしこのまだら加減がパラチという古い町によく調和しているから不思議だ。いかにも昔からの由緒ある家族が住んでいるといった風情である。  ベルを押しても誰も ...

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どこから来たの=大門千夏=(67)

「何を言ってるのよ。そんなこと言っても前世のカルマもあるからね。そう簡単にはゆかない」と友人は恐ろしいことを言うが、今の私にとっては医療保険に入っていないのだから、頼りになるのはこのイシュタル様だけなのである。 「お願いですよ。ことが起こったらすぐに一直線に天空に連れてってくださいよ。すみませんがお願いします。お忘れなく」と念に ...

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どこから来たの=大門千夏=(66)

 しかし不思議とこの高さ二八㎝の泥人形は、どこに置いても見劣りがしないのだ。どんな物のそばにおいてもしっかり自己主張している。  おかしなもので物というものには「位」があって、いい加減なものは本物のそばに置くととたんに見劣りがしてくるし、見あきてくる。しかし本物はどこに並べおいても風格がある。  これはやっぱり本ものに違いない… ...

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