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連載小説

どこから来たの=大門千夏=(16)

 彼の細工場は街の中央の古いビルの中にある。このビルに入ると大理石を敷き詰めた丸いホールがあって、正面の壁には細かいタイル細工でコーヒー園の様子が描かれている。よく見ると右下にかの有名なニーマイヤのサインがしてある。  天井は高く、壁、ドアの飾りつけは銅版が使われて、いつも掃除婦がピカピカに磨きあげている。ブラジルの良き時代、コ ...

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どこから来たの=大門千夏=(15)

 その上、作品をじっと見ていると、自分があの石器時代に紛れ込んだような錯覚まで起こす。  不器用な私も、みなと同じように石を削ったに違いない。しかし根気のない私はすぐに投げ出してしまった事だろう。そんな途中で投げ出した不出来な発掘品も今、手元にいくつかある。これぞ本当に前世の私の作ったものに違いない、と思うと、これまた愛着が湧く ...

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どこから来たの=大門千夏=(14)

 小さい時から私は発掘品が好きで、若いころは考古学者になろうとしたことがあったが、ある時、発掘現場で多くの学生が、炎天下にしゃがみ込んでハケを一本もって土を払いのけている作業を見て、即、その気を失くしてしまった。 ――考古学者になるよりコレクターになったほうが楽だわい、と気楽な道を選んだから努力の結晶 で得た発掘品は一つもなく、 ...

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どこから来たの=大門千夏=(13)

 いつだったかバンコックの街で、切った街路樹の枝を、象が軽々と鼻で束ねてくるくると巻きあげ、上手に背中に乗せ、次々と積みあげている光景を見たことがある。瞬くうちに積み終えると何処かにゆったりのっそりと遠のいていった。  あの象一頭の方がずっと早く正確で、木と機械より、木と象のほうが人間の生活にぴったり調和しているのを見て、なぜか ...

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どこから来たの=大門千夏=(12)

 すごいケチなんだ! もう絶対頼まないぞ。でも笑顔だけは作って挨拶し、家に帰った。  一時間くらいして台所で夕食の支度をしていると、おや雨だろうか、外からさわさわと音がしてきた。…その内、ざわざわの音に変った。窓から首を出してみると塀の向こうで男が前かがみになって何かを引っ張って歩いているようだ。何をしているんだろう?  しばら ...

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どこから来たの=大門千夏=(11)

 老婦人と別れて歩き出した私は、沈んだ一人息子の話をサバサバと語ってくれた事がとても心に引っかかった。  息子に死なれて、あれから何年たっているのだろうか。一〇年たって子供をもらったという。その子が今、三〇歳になった。それでは四〇年経つのだろうか。  一人息子を亡くしたことは、夫を亡くした私よりずっとずっと悲しみが大きかったに違 ...

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どこから来たの=大門千夏=(10)

 相変わらず馬鹿正直でうんざりすることは度々あったが結婚生活は平穏に続いた。  いくら金儲けが上手でもケチでお金に汚い男ではどうにもならない。これでいいんだ。私の分相応な夫なのだと自分を慰め慰めてのあっという間の二五年、幸いなるかな最後まで「保険」を受け取るチャンスはなかった。(二〇〇九年) サバサバと話せる日  サンジョアキン ...

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どこから来たの=大門千夏=(9)

 私達が住んでいるこの五軒長屋の住民で、払っているのは多分バリグ社に勤めている隣のご主人位だ。  しかしそれも微々たる額だろう。三軒目は外交員(と言えば聞こえがいいが、一軒づつ何か小物を売り歩いている人だ)四軒目はパン屋を持っていると聞いた。五軒目は会計事務所に勤めている。みんな小市民でギリギリの生活をしているのがよくわかる。着 ...

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どこから来たの=大門千夏=(8)

 しかし、今はそんな花の命を見ると心が痛む。生と死とを神経質にとらえるような年になったからだろうか。  それにしても、咲ききってしまった花に愛着を持つなんて…こんな事を感じる年になるまで、生きながらえた自分を、かつて想像したことがあるだろうか。  昔、昔の事。  ある日、夫は外出から帰ってくると「ほうら」と言って握りこぶしを差し ...

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どこから来たの=大門千夏=(7)

 もちろんあの結婚記念の絵は一番に積んだ。応接間の壁にかけた。濃い黄色の壁に金色の額。なんだかどこかの国のハーレムの写真にあったような応接間が出来上がった。  知性と教養、文化の香り高い趣味が、いまでは成金趣味のハデハデ応接間に変身した。  初めて手にした分相応なる不動産。不思議なことにここが自分たちの家だと思うと、今まで借家に ...

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