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連載小説

どこから来たの=大門千夏=(6)

 ここから丘の上を見ると間違 いなくあの家だ。この丘の頂上に向かって一直線に雨でえぐられた、でこぼこの土道があり、息を切らして登る。登りきったところに家は一軒もなく緑もない。あるのは吹き上げる風と赤茶色の土ばかり。この五軒長屋が左手にある。色とりどりにペンキが塗られ、これが童話に出てくるような家だって? 魔法使いのおばあさんだっ ...

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どこから来たの=大門千夏=(5)

 私たちが住んでいる所はセ広場からタバチンゲーラ街を下って、最初の道を左に入るとシルベイラ・マルチンス通りがある。ここにある借家だった。何といっても私の好み、「町のど真ん中」にあるアパートである。セの広場に歩いて五分、リベルダーデに七分。最高に住みよい場所だ。古い建物だから天井は高く各部屋は大きくゆったりしている。私は大いに気に ...

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どこから来たの=大門千夏=(4)

 さっそく夫と大工は重い風呂おけを前後してもって、ヨタヨタしながら歩く。そのあとを六人の男の子たちが、手に手に草や花を持って神妙な顔をしてついて来る。帰れ帰れといっても誰一人帰るものはいない。近所の住人、店主も、お客も、道行く人々も足をとめ、総出でこの行進を眺めている。乾いた風が気持ち良い五月の夕暮れどき、皆の視線、注目を一斉に ...

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どこから来たの=大門千夏=(3)

 この通りには左側に広島県人会、全国拓殖連盟の事務所があり、そのずっと向こうには東山銀行もあった。右側には散髪屋、事務用家具店、美容院、八百屋、木工所まであり、どれも家族経営の小さな商いで、事務用家具店と言っても事務机が六?七卓並べてあるだけで、若い男が終日うたた寝をしていた。  私達が入った借家は古いせいか、家の中の造作が大き ...

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どこから来たの=大門千夏=(2)

 一二〇×一七〇㎝の大きな額付きの絵を二人で両端を持ちあって、あのグローリア街の緩やかな坂道をエッサエッサと上り、時々前後、夫と入れ替わって背の低い私は肘を上げて道のコンクリートに額の石こうが触れないように持ち上げて大切に運ぶ。 「大きい事は良いことだァ…」と二人で歌いながら何度も何度も休憩しながら裁判所の横に出る。金色の額が真 ...

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どこから来たの=大門千夏=(1)

 第一章 大きい事は良いことだ  私たちの結婚式が済んで三ヵ月経った。荷物も片付き家の中も落ち着いた。一九六五年のある朝、コーヒーを飲みながら夫は「結婚記念に絵を買おう」と言った。 「賛成」。結婚の思い出には、食器より、花瓶より、小さな絨毯より、絵が最高! 一枚の絵を飾ろう。その日のうちに飾る場所は決まった。応接間に入った真正面 ...

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回想=渡満、終戦、そして引き揚げ=浜田米伊=(11)

 苦しみや悲しみにうち沈んでいる内に時が経ち、翌1975年7月18、19、20日の3日間、朝に大霜が降り、コーヒーの木は全滅。この時はさすがに私でも希望を失い、元気もなくなってしまいました。  この頃のコーヒーの木は12年木となっており、毎年大成りが続いていたのです。また、買ったばかりの車の支払いも残っておりましたし、コーヒー園 ...

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回想=渡満、終戦、そして引き揚げ=浜田米伊=(10)

 コーヒーの木が小さい時は間作といって、その間、色々な雑穀を植えるのです。米は中へ4通り、フェジョン、大豆、ミーリョ(とうもろこし)と色々な種を蒔きました。どこの家もポルコは太らせて売りますから、ミーリョが一番必要なものです。米の収穫などで、倉庫も建てました。  私の家は主にコーヒーの種類はムンドノーボ、ボルボン、スマトラという ...

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回想=渡満、終戦、そして引き揚げ=浜田米伊=(9)

 すると思いがけなく、そこの地主の国井さんという人が、こちらが払った分をそっくり持ってきて返して下さったことには、みんなが驚きました。こちらがやめたものだから、そのお金を返してもらえる等とは誰一人思っていなかったのです。ブラジルにもこんなに心の温かい人がいるものだと、有難く思いました。  こんな事で、1962年に自分の土地に入植 ...

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回想=渡満、終戦、そして引き揚げ=浜田米伊=(7)

 私が嫁いだ所は郡が違う遠い場所でした。まだ今まで一度も見たことがないところで、そこは田も畠も高い所にありました。これまで会社勤めをしていた私には、段々畑を早足で歩いたり、坂を駆け上ったりする事はとてもキツいことでしたし、なかなか大変な仕事でした。しかし一生懸命頑張ったことは確かで、百姓生活にもだんだん慣れてきました。  満州か ...

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