連載小説
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道のない道=村上尚子=(51)
しかし、必ずそれ以上の金額を、よっちゃんのポケットに入れてやった。理由は、よっちゃんがチップをくれる客と、くれない客の差別をさせないためであった。 夕方、早めに私たち三人は食事を済まさないと、もう
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道のない道=村上尚子=(50)
そんなある日、思ってもみない人間がやってきた。あの小料理屋のばあさんである。 「あたしゃあ、あそこは辞めました。ここで私も働かせてもらえんでっしゃろか」 まるで親戚の家にでも、やって来たような顔。
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道のない道=村上尚子=(49)
が、私の魂が踊っている。これほどの活力が、どこから湧いてくるのか…… バロン・デ・イグアッペ通りに、気に入った場所を見つけた。中国人のもので、貸し出していた。 私とこの女主人は、ポルトガル語がまる
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道のない道=村上尚子=(48)
隣の寿司屋と女将は、大変親しく付き合っている。四才の一人息子も、あどけない顔をして、女将の店に入りびたり、頭を撫でられていた。 ある日、この子が竹竿を持ち込んで来て、客の頭を叩いて回り始めた。女将
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道のない道=村上尚子=(47)
ところが、そこの社長の任期が終わり、次の社長がその家に入って来た。それが、あの叱りつけた人であったとのこと。 前社長の話に戻るが、トイレで用を足しても水も流していない。頭にきたばあさんは、紙に大き
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道のない道=村上尚子=(46)
また、食堂の経営者同士で揉め事が起きる。すると、わざわざクリチーバからやって来て、丸く治めてしまう。何か昔聞いたどこかの親分のような、気風の良さと、人情を持っている男である。 人情といえば、こんな
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道のない道=村上尚子=(45)
「ヤクザではないな」と判断ができた。 彼は、食事を注文してあるらしく、その間、私たちに話しかけてきた。ボリウムのある、テキパキした声。 「いつから、ここに入ったの?」 ということは、十名の女の顔は
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道のない道=村上尚子=(44)
こうすれば、客とのつながりが出来る。おばさんの戦略である。彼女は人懐っこい笑顔で、階下の一室に品物を広げている。 私も先月買った分の金を、部屋に取りに戻った。ない! 鏡台の下へ洋服代として突っ込ん
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道のない道=村上尚子=(43)
といっても、それっきりで、話題を持たない私は、やはり「枯れ木も……」の存在であった。しかし他の女たちも大同小異と思える。なのに近頃のマダムは私にだけ冷たい。それも段々、度を超えてきた。私はやっとある
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道のない道=村上尚子=(42)
私の周りの客へ、三―四回もお酌したり、ジュースのお代わり等をしたら、後は客が帰るまで待つ。客たちが立ち上がったら、靴を揃えてあげる。そして彼らが引き上げ始めると、階下の玄関まで、みなで見送る。これで