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連載小説

道のない道=村上尚子=(21)

 この日は、みなと違う場所へ仕事に出かけた。菜園用の畑に赴いたのだ。この畑へ、ひろ子を置いて去ることにした(後で気がついたら、彼らが父母へ子供を届けてくれる)と思っていた。ごたごたした、ひろ子の品物を持ち出すのは、皆に不審を持たれる。子供は、着の身着のまま連れてきた。今、眠り込んでいる……誰も気づいていない。周りの者たちは、それ ...

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道のない道=村上尚子=(20)

 家計の財布は一郎が握っていて、それに何の不満もなかった。年中現金の顔はあまり見ない世界にいたので、家計を任されようが、そうでなかろうが気にもならない。  一週間もした頃、一応家の中のことは慣れたので、改まってバールを覗いた。二、三人の客が、ピンガを飲んでいる。陳列ケースの中には、ぱっとしない「サルガード(前菜)」が並べてある。 ...

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道のない道=村上尚子=(19)

 ひろ子が歩くようになった。一歩一歩両手を広げて、私へ向かって来る。嬉しそうに……いつでも支えられるように、私も身をこごめて両手を広げた。そんなに大きくなってきたひろ子。これを毎日おんぶしての草取りである。暑さと疲労の戦いである。炎天下の下、ひろ子のお腹と、私の背中のぴったりした箇所が煮えるようだ。子供は大丈夫だろうかと不安であ ...

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道のない道=村上尚子=(18)

「母が、さすがに私たちのことを放っておけずに、父を説得したのだろうか?」  その時は、何が何だか分からずに、すぐに山城家に向かった。私は内心あのおじさんなら、と思えたからでもあるが。無一文の私たちは、支度らしい支度はほとんどいらず、身ひとつで引取られて行った。  着いてみると、山城家には私たちと似たりよったりの年頃の息子が三人、 ...

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道のない道=村上尚子=(17)

 父の説明によると、毒蛇の体の模様は地味で頭は小さく三角形ということであった。確かに体の模様はおとなしかった。  翌日、三キロ先の太田さん宅へあげた。ご主人はいそいそと蛇料理にとりかかった。この家でもこれほどの食料が舞い込んだことを喜んでいるのが、彼らの立居振る舞いで感じとれる。ご主人は、さっそく輪切りにして開き、骨は抜いて塩焼 ...

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道のない道=村上尚子=(16)

 星が目に痛いほど光っている。それを眺めながら、「私たちは、この先どうなって行くのだろう」と思い巡らした。  茂夫は、少しづつ笑顔が戻ってきた。夜、ランプの下で、雑誌を読んで聞かせると、楽しむ反応を示した。そんな彼がある日、 「川中へ、ちょっと行ってくる。すぐ帰るき」  と言って出かけた。日がとっぷり暮れた。しかしランプを灯すの ...

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道のない道=村上尚子=(15)

「お父さんは、あの恩給で自分自身をダメにしてしもうた……」  この知らせを境に、父はいよいよワンマンになり、皆を頭から押さえ付けた。何より茂夫に対する苛めが、度を越してきた。ついにこの孤独な彼を見かねた私は、別居を申し出た。というより喧嘩別れである。  別居と云っても、仕事場も何も変わらない。住む家だけの話。私と茂夫、赤ん坊の三 ...

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道のない道=村上尚子=(14)

 何やかやと大変なことが押し寄せたが、一段落した。こちらも人のことどころではない。産後の養生のため、炊事は私の当番になった。その後、川中さんの指導のおかげで、こちらも自給自足の体制に入っていった。  少しづつ玉ねぎやキャベツ等が出来始めた。しかし相変わらず、肉もなければ魚もない。主食はあのとうもろこしだけ。とぼしい材料で、皆が飽 ...

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道のない道=村上尚子=(13)

 さて、茂夫が一時身を寄せていた,川中家の説明をしたい。  半年前、同県人ということで食事に招待されたのだ。四キロメートル離れている。おじさん(七十歳)、おばさん(五十五歳)、娘の静加(十九歳)、息子の友夫(二十二歳)、それに同居の光夫(二十ニ歳)。彼らは、コーヒー園の手入れの傍ら、もうとっくに自給自足をやっている。家の回りは、 ...

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道のない道=村上尚子=(12)

 それから又、意識が途絶えた。後で知ったことだが産後の胎盤が、体から剥れず、大出血となったのだそうだ。  気が付いた時、私は、ジープの窓辺に座らされていた。きっと家族がたくさん乗り込んで、私を横にさせる空間がなかったのだろう。この時は、そんなことさえ考えることも出来なくて、朦朧としていた。  目を外に向けると、並木がピュン! ピ ...

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