連載小説

  • ドロドロと鉄が溶けた高炉

    実録小説=勝ち組=かんばら ひろし=(14)

     ここミナス州イパチンガ(町)は日本とブラジル合弁の最大のプロジェクトと言われた一貫製鉄所建設の現場だった。  日本側は数百億円の投資をし、ほぼ全ての設備機材を供給し、一方ブラジル側もそれに見合う資金

  • 建設工事開始時、現場に掛けられた工事看板

    実録小説=勝ち組=かんばら ひろし=(13)

     こんな会話の日々もあって、『大きな舞台で新しい仕事を見つけて、発展をめざしたい。出来ればお金ももっと稼いで、田舎で窮屈な暮らしをしている妹たちにも良い生活をさせたい』そう願っていた勝次に耳寄りなニュ

  • 実録小説=勝ち組=かんばら ひろし=(12)

     杉田源吉家には四人の子供が残された。  父と一緒に家に居た正吉と勝次、それに幼くて知人の家に預けられて居たさと子とよし子である。  男の子二人は係員による事情聴取は受けたが、未成年なので無罪放免とな

  • 実録小説=勝ち組=かんばら ひろし=(11)

    「ゴーッ」  砂まじりの風が通りすぎて枯れ草が宙に舞った。乾いた太陽がギラギラと輝いた。  厳重に固めた軍警兵の包囲の輪がジリッとまたひとつせばめられた。こちらの呼びかけには何の応答もなく、しんと静ま

  • 実録小説=勝ち組=かんばら ひろし=(10)

     手堅く仕事を伸ばし、仲間内でも信頼の厚い川本が口を開いた。 「源さん、貴方の言うことはもっともだ。今までの積みあげをみんな奪ってしまって、非道を通してきた外人に今更頭をさげられないという貴方の気持ち

  • 実録小説=勝ち組=かんばら ひろし=(9)

        *      * ――ここで説明をしておかねばならない。第二次世界大戦終了直後のブラジル日系コロニアは、通信の不自由だった事情もあって、絶対多数を占める日本の敗戦を認めないいわゆる『勝ち組』と

  • 実録小説=勝ち組=かんばら ひろし=(8)

     以前は気力にあふれて話をしたのに、めっきり口も重くなった。ただ、残された四人の子供たち、正吉、勝次、以下の二人の女の子に対する時だけは、その強い閉じられた顔に、昔どおりの明るい笑顔が浮かぶのだった。

  • 実録小説=勝ち組=かんばら ひろし=(7)

    「父ちゃん、火だ」正吉が低く叫んだ。 「うーむ」子供の手を強く握り返しながら源吉はうめいた。  めぼしいものをあらかた奪い尽くしたあげく、誰かが火をつけたらしい。店の奥の方から黒い煙がもくもくと上がり

  • 実録小説=勝ち組=かんばら ひろし=(6)

    「分かった松さん、ありがとう。礼を言うよ。それじゃ、裏からコンセイソン通りを抜けて教会の裏手に出よう。あの辺は住宅地だし、ものの分かった人達が多いから、害を加えられることもなかろう。ふさ、大事な物だけ

  • 実録小説=勝ち組=かんばら ひろし=(5)

     何しろ絶対多数のブラジル人に囲まれて住むのであり、ことに官憲の保護も十分に及ばないこの様な田舎町では不安を増すような噂が多かったのである。「ポポーッ」九時半を告げるハト時計が鳴った時だ。「大変だ。外

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