連載小説

  • 実録小説=勝ち組=かんばら ひろし=(4)

     夕暮れに一人、太陽を見つめる源吉の目に初めて涙が浮かんだ。希望に胸を膨らませて祖国を出た姿に比べ、惨めで汚れたこの姿。苦しくても誰にも救いを求められない。異郷の孤独が身にしみた。「母ちゃん」 ぽとり

  • 実録小説=勝ち組=かんばら ひろし=(3)

     ところが相手はこれを松太郎への加勢と勘違いしたらしい、振り上げた鞭を今度は源吉に向けてきたのだ。はじめの数回はなんとかかわしていたもののバシッとまともに一発を食らうと対抗するしかなかった。軍隊時代に

  • 実録小説=勝ち組=かんばら ひろし=(2)

     昭和の初期、アララクアラ沿線のこのコーヒー農場には数十家族の日本移民がコロノ(農作業者)として入っており、新来の源吉夫婦もその一員だった。 やがて支度が整うとエンシャーダ{鍬}を肩に、昼の弁当と水が

  • 実録小説=勝ち組=かんばら ひろし=(1)

     ブラジルの空は高く、青く澄んでいた。白地に赤も鮮やかに、日の丸の旗がはためいていた。 ピュ、ヒューン 澄んだ空気を切り裂いて弾丸が飛んだ。「正吉、勝次、伏せろ。窓から顔を出すじゃねえぞ」。源吉はあら

  • 自伝小説=月のかけら=筑紫 橘郎=(44)

     特に専務は、「これからの君に期待されている特大有望地区なのだ。ここを二週間、君と周り、俺の全ての知識は一応説明した。だが、これからは君が奥さんにも教えながら頑張りなさい。そして早く軌道に乗せて、新入

  • 自伝小説=月のかけら=筑紫 橘郎=(43)

     何にも知らないのは千年太郎一人。彼女(森沢須磨子)と千年の経緯(いきさつ)を全部知り尽くして対応されているのには、また驚く千年だった。 「だとすると、なぜなんだ?」と自問した。要は自分の力量だけが目

  • 自伝小説=月のかけら=筑紫 橘郎=(42)

     「いかん、いかん。俺は一体なにしに来たんだ。女房の静江や子供を何とする。いかん、いかん。そんなお前じゃないだろう。どうした、どうした」と太郎は自分の頭を自分で叩きながら自問した。 自業自得で人様に笑

  • 自伝小説=月のかけら=筑紫 橘郎=(41)

     その頃、再三、岐阜市を訪問していた千年君。そのついでに大阪の企業のお膳立てで、ブラジルからの「出稼ぎについて」と題した講演会に招待された。そこで出稼ぎ事情をお話したが、その席に彼の支店長さんが出席し

  • 自伝小説=月のかけら=筑紫 橘郎=(40)

    「なんだって、青森かい」「あなた青森に行きましょう」「青森は、ちと遠いよ」 しかし千年は、「しかし、待てよ。ホテルに泊まるより良いかもね。そうだ青森にしよう。そうだ、まず東京に行こう」と考え直した。 

  • 自伝小説=月のかけら=筑紫 橘郎=(39)

     二人が降りると、待ち受けていた一人がうやうやしく、「さあ、こちらへ。お荷物は事務所にお届けして置きますから」と、まるで5つ星ホテルでボーイさんから丁重に扱われているような歓迎を受けた。 エレベータで

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