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連載小説

自伝小説=月のかけら=筑紫 橘郎=(38)

第六章 さて、あれから二年半、千年君がピンチの日本へ夜逃げ、二年半まえの前述のお話に繋がる。 バリグ航空機に乗り込み、飛行機が水平飛行になった途端、「千年さん」と声掛けられて、度胆を抜かれた。須磨子さんに助けられて、千年君は五年が経っていた。 ところで話を中断しましたが、五年前の経緯に戻ります。さぁー、千年君どうする。飛行機は空 ...

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自伝小説=月のかけら=筑紫 橘郎=(37)

 さもありなん。彼女は父親が有名な職人気質の庭園師で、名の知れた厳しい人。質素倹約を旨とした、誠に大和民族の誠心を子孫に残すのが趣味みたいな人物の頑固おやじ。子供たちにも厳しい人と噂があった。その家族の長女である。根性も座っていた。美人だが中小企業庁の公務員と聞いていた。 千年太郎の活動は、どうやら軌道に乗り、多忙な日が続いてい ...

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自伝小説=月のかけら=筑紫 橘郎=(36)

 千年くんは素直に「解かりました」というと、二人で支店長室に這入った。「支店長さん私は、ブラジル語が充分話せません。失礼があってはイケませんので、森沢さんに詳しく説明して頂きますがよろしいでしょうか」「おお解かった。森沢さん聞きましょうか」 森沢さんが流暢なブラジル語で話し始めたが、太郎君には森沢さんの説明は半分も解からなかった ...

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自伝小説=月のかけら=筑紫 橘郎=(35)

 結果は、最初から解かっていた通り、万事休す。一時、お先き真っ暗に。これも自業自得の定めかと、サー、何とする。農家に支払うお金はゼロであり、品物の仕入れも完全にストップ。打つ手なしのこのままでは、帰るところもなし。 「ままよ」と、とりあえずコーヒー一杯。 俺の人生もこれまでかと、あるバールにふらりと這入った。気付くと奥のカウンタ ...

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自伝小説=月のかけら=筑紫 橘郎=(34)

 それでも早めにエコノミークラスの通路側に席を取り、寝た振りを始めた。千年君、どう見ても見られた者じゃないが、飛行機は定刻の一時半、滑るように走り出した。こうなると千年君、安心したのか、少し眠気を感じた。 さあその時、「千年さん」と呼ぶ声を聞いた。なーに、そんな事ないよ。誰にも日本に行くなんて知ってるはずはない。気のせいか、空耳 ...

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自伝小説=月のかけら=筑紫 橘郎=(33)

 そのうちパウリスタ新聞、サンパウロ新聞にチラホラと記事になり出すと思っていたら、今野氏が全伯民謡で優勝し、千年は日本民謡協会ブラジル支部の役員に。何が何んだか、わけが解からないうち、盛んに宮城県人会、福岡県人会、岐阜県岐阜市と盛んに交流を始める。 「サーテ、お立会い」とばかり、千年君は花柳流日本舞踊にまで触手を伸ばす。このよう ...

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自伝小説=月のかけら=筑紫 橘郎=(32)

 今野さんが「あそう、実は俺はバンコ(銀行)に少しばかり借りがある。これを明後日までに返えさないと、後の融資を受けられなくなる。三日で良いから貸してくれないか。必ず三日目には返す」と頼む。「ああ仕方ない。必ず近い内に返して貰えますね」と念を押し、「幾らぐらいですか」と訊ねた。「すまんな、一万クルゼイロスでいい。そりゃぁー、無理で ...

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自伝小説=月のかけら=筑紫 橘郎=(31)

 いつの間にか見知らぬ市場の先輩らしい人が、親しく声を掛けてきた。彼らが「そこらでコーヒでも飲みますか」と誘ってくれた。 彼に付いて行って、コーヒ店で色々と話してくれた。どうやら、この人は宮城県人の様だ。中々話が面白い。「朝から油を売ってたんじゃ、商売にならん。午後からでも、ゆっくり聞きましょう」と話を切った。 彼の名前は今野吉 ...

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自伝小説=月のかけら=筑紫 橘郎=(30)

 先の古里の父の手紙には、「誰がお前の様な者を日本の親元まで訊ねて下さるか。この様なご厚意の方をけして無にするでない」と孫達の事まで得々と書いてあったのだ。 そして一九六七年一一月、カンピーナス一三〇万都市近郊、ベーラ・アリアンサ伊藤、第一種鶏場に飼育掛りとして、太郎は赴任した。この種鶏場は、カンピーナス市から二キロ地点の市街地 ...

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自伝小説=月のかけら=筑紫 橘郎=(29)

 すると中から、二人の紳士が降りてきた。太郎は飛んでいき、二人に最敬礼をした。妻幸子が玄関のドアを開けながら、「貴方、はいってもらいなさい」と声掛けた。 太郎は二人を促して家に入った。「いやー、留守で済みませんでした」「いや、君がそろそろ帰る頃かぐらいは、カンピーナスで調べさせて来た。どうだった、ミランドーポリスは変わった事は無 ...

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