意外なことに、守屋の言葉は嘘ではなく、その女は20代半ば過ぎのラテン系の美人だった。肩まで伸びた栗色の髪、くっきりとした瞳、いつも微笑みを浮かべているような唇、外人にしては小柄で細身だが出るべきところが出た体、リカルドはその女のすべてに魅せられた。「パウリスタ(サンパウロの女の子)の魅力にはめられたんだ?」「アナは外見だけでな ...
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「ある日曜日」(Um Dia de Domingo)=エマヌエル賛徒(Emanuel Santo)=(7)
【第4話】 最愛の両親を亡くして精神的にダメージを受けた上に、このまま商売を続けると自分の身も危ないと感じたリカルドは、祖父の代からの店をたたむ決心をした。幸い、堅実な経営をしてきたおかげで一家に借金はなく、従業員には世間の相場よりも高めの退職金を払ってやめてもらった。店舗は不動産屋を通じて設備ごと売りに出したが、不況の最中す ...
続きを読む »「ある日曜日」(Um Dia de Domingo)=エマヌエル賛徒(Emanuel Santo)=(6)
「両親は忙しかったですが、いつも僕を可愛がってくれました。店を閉めた後は、いつも三人一緒に夕食をとり、疲れていてもその日の出来事や相談事を聞いてくれました。日曜日の午後は、日本語を教えてくれたり、公園や遊園地に連れていったりしてくれました。家族三人が元気に楽しく過ごしていたあの頃が、本当に懐かしいです」「そうか。親が愛情を惜しま ...
続きを読む »「ある日曜日」(Um Dia de Domingo)=エマヌエル賛徒(Emanuel Santo)=(5)
「何かの書類?」「ペドロという男の子の出生証明書のコピーです。サンパウロ市の公証役場が発行していますが、オリジナルはどこにあるか分かりません。この子は、3年前にサンパウロ市内の病院で生まれています。母親の欄には『Calorina Santos』という名前がタイプされていて、その下に母親自身のサインと身分証明書の番号が登録されてい ...
続きを読む »「ある日曜日」(Um Dia de Domingo)=エマヌエル賛徒(Emanuel Santo)=(4)
涙ぐむリカルドには申しわけないが、思い出したことを聞いてみた。「奥さんは麻薬が原因で死んだとか?」「信じられませんが、彼女自身が麻薬をもっていたらしくて、僕が東京にいる間に、警察は群馬の僕らのアパートを念入りに調べたらしいです。もちろん何も出てきませんでしたが・・・」 警察の取調べが一応終わった後、リカルドは在京のブラジル総領 ...
続きを読む »「ある日曜日」(Um Dia de Domingo)=エマヌエル賛徒(Emanuel Santo)=(3)
【第2話】 9月最後の日曜日、ある日系人が、事前のアポもなく事務所に現れた。 彼のように外国から出稼ぎに来ている連中の多くは、日曜日しか時間がとれないようだ。私は、毎日が日曜日のような生活をしているので、いつ客が来ても迷惑しないし、むしろ一人暮らしの寂しさを紛らわせてくれるので嬉しい。 短髪でまじめそうな顔をしたその男は、リカ ...
続きを読む »「ある日曜日」(Um Dia de Domingo)=エマヌエル賛徒(Emanuel Santo)=(2)
私生活のほうは、素性の知れない私を理解し受け入れてくれた女性とめぐり会って結婚し、ようやく家族としての幸せを手に入れた。南米では、日本人移民(私)とヨーロッパ系移民(妻)の間にできた息子にも、自動的に生まれた国の国籍が与えられたため、両親と子供の国籍がばらばらになったが、移民社会である南米ではよくある話だ。息子はいじめにあうこ ...
続きを読む »「ある日曜日」(Um Dia de Domingo)=エマヌエル賛徒(Emanuel Santo)=(1)
【第1話 プロローグ】《ブラジル女性に薬の魔手》 警視庁によれば、9月4日・日曜日の深夜、東京・六本木の麻布警察署付近の路上で外国人女性がうつぶせに倒れているのを、通報を受けて駆けつけた救急隊員が発見した。着衣に目立った乱れはなく、外傷もなかったが、心肺機能が完全に停止していたため、その場で応急手当が施されたが、すでに手遅れで死 ...
続きを読む »チエテ移住地の思い出=藤田 朝壽=(12)
周りに誰もいないベンチに腰かけて勢い話は本のことになる。何と言っても今日の掘り出し物は「金子薫園の短歌の作り方」と私が言えば、いや 谷崎潤一郎の「文章読本」もいい、と品次君が言う。 ウニオン区の青年たちが見おとしてくれたお蔭で我々の手に入ったのは運が良かった、と喜び合うのであった。 閉店時間も近づいた。冬の日は暮れるのが早い。 ...
続きを読む »チエテ移住地の思い出=藤田 朝壽=(11)
常日頃欲しいと思っていた本がある。 「万葉集評釈 江戸時代和歌評釈」「子規・節・左千夫の文学」佐々木信綱の「豊旗雲」谷崎潤一郎の「文章読本」「朗吟名詩選」福沢諭吉の「人生読本」バルザックの「この心の誇り」選んだ本を千代吉さんに持って行く。彼は品次君と吉川君が選んだ本を手帳に記入しながら恵比須顔である。 珍しい本では山鹿素行の「 ...
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