ニッケイ新聞 2013年3月9日 佐織の方も甘い言葉を期待していたわけでもなくそれで納得してくれた。二人で暮らすのが自然だと小宮も佐織もそう思えるようになったから結婚する。それだけのことだった。 水上温泉を旅行した後、アパート探しをするのが二人のデートになった。結婚に備えて新居を探し始めたのだ。 小宮は佐織を両親に紹介した ...
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連載小説=移り住みし者たち=麻野 涼=第29回
ニッケイ新聞 2013年3月8日 部落出身であるという理由で結婚が破談になる事実を、小宮は最も身近なところで体験した。この事件以来、姉は見合いも恋愛もせずに、今も独身だ。そんな姉の姿を見ているので、佐織と出会った時は、早い時期に部落出身であることを告げようと思った。結婚という段階になってその事実を明かし、破談になったのではあま ...
続きを読む »連載小説=移り住みし者たち=麻野 涼=第28回
ニッケイ新聞 2013年3月7日 しかし、それが幻想でしかないことを小宮は高校三年の時に思い知らされた。小宮には四歳年が離れた勝ち気な性格の姉真弓がいた。真弓の結婚は式直前に破談になったのだ。表向きには相手の男性の心変わりが原因で、弁護士を介して婚約破棄を正式に伝えてきた。相当の慰謝料を支払うから、婚約を解消したいというものだ ...
続きを読む »連載小説=移り住みし者たち=麻野 涼=第27回
ニッケイ新聞 2013年3月6日 何度も同じ経験をするうちに、用事があるとか、勉強、宿題というのは嘘で、引き離される原因は小宮の住む地区にあることが、子供ながらわかってくる。 そうした大人の陰湿さとは対照的に子供の世界は特別な配慮はなかった。小宮が放課後、遊ぼうとしたり、仲間に加わったりしようとすると、拒否されるようになった ...
続きを読む »連載小説=移り住みし者たち=麻野 涼=第26回
ニッケイ新聞 2013年3月5日 小宮が佐織を食事に誘う時も、「近いうちに食事を一緒にしていただけませんか」と、ただ用件を伝えるだけで、ぶっきらぼうな感じさえした。しかし、寡黙な父親を見て育った佐織にはそれがかえって彼の誠実さのように思えた。 最初のデートも映画を見た後、ドライブインで食事をし、深夜の首都高速をドライブして帰 ...
続きを読む »連載小説=移り住みし者たち=麻野 涼=第25回
ニッケイ新聞 2013年3月2日 佐織の実家は代々農家で、広大な土地を所有していた。牧畜をやるほどの広さはないにしても、野菜を中心に生産する近郊農業を営むには十分だった。農家を継ぐ者が減少しているなかで、佐織の両親も長男の一敏が農家を継ぐのかどうかを心配していた。しかし、長男は東京の大学の農学部を卒業し、家業を継いだ。野菜を東 ...
続きを読む »連載小説=移り住みし者たち=麻野 涼=第24回
ニッケイ新聞 2013年3月1日 ホンダはアマゾン中流の都市マナウスに築いた現地工場で二輪車の生産を開始、リオやサンパウロの大都市に出回ったオートバイの整備、修理の技術者が不足していた。小宮は日本で一級整備士の資格を持ち、高給で採用された。アクリマソン区は近くに緑あふれる公園がある閑静な住宅街だ。東洋人街には日系の移民が多かっ ...
続きを読む »連載小説=移り住みし者たち=麻野 涼=第23回
ニッケイ新聞 2013年2月28日 彼女は百クルゼイロ札を二枚だけ取り出して、残りは封筒のままブラジャーの中に挟み込んだ。 「ちょっと待ってて」 テレーザはフロアで踊っている女性の一人を、大声で呼んだ。 「ソニア、ここへ来て」 その女性も白人だった。髪は金髪というよりも赤茶けた色をしていた。その髪を後ろで束ね、ポニーテール ...
続きを読む »連載小説=移り住みし者たち=麻野 涼=第22回
ニッケイ新聞 2013年2月27日 日本から持って来たカメラは三台ほどあった。ドルが完全に底を着くと、児玉はまず一台目のカメラを売った。久し振りに懐に金を入れて、ミッシェルに顔を出した。テレーザはまだ来ていなかった。 児玉はテーブルに着くと、踊っている女性をぼんやりと眺めていた。一人で飲むのはやはり退屈だった。彼はテレーザを ...
続きを読む »連載小説=移り住みし者たち=麻野 涼=第21回
ニッケイ新聞 2013年2月26日 児玉はテレーザが本気で言っているとは思っていなかった。 「ああ」 「コダマなら、そう言ってくれると思った」 翌朝、トニーニョが寝室に入ってきた。二人はまだベッドの中でまどろんでいた。テレーザは児玉の腕の中で抱かれるように寝ていた。 「ママ、だれ、その人」 「ボンジア(おはよう)。この人はマ ...
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