移り住みし者たち=麻野 涼

  • 連載小説=移り住みし者たち=麻野 涼=第86回

    ニッケイ新聞 2013年6月1日 「日本人のパスポートを使い、韓国語も話せない。同胞だといえば、逆に激しい怒りを買うだけだ」  児玉の言っていることは大げさではなかった。 「民族の血なんていうのはしょ

  • 連載小説=移り住みし者たち=麻野 涼=第102回

    ニッケイ新聞 2013年6月25日  しかし、朴仁貞は一度言い出しら、簡単にはそれを引っ込める性格ではないことを幸代自身がいちばん理解していた。  最後には隣の住人に聞こえるような大声で幸代を詰り出し

  • 連載小説=移り住みし者たち=麻野 涼=第87回

    ニッケイ新聞 2013年6月4日 「ナチズムとは違って、日本人からの厳しい差別を受けている在日が、その差別に抗して民族文化を守るための自衛手段よ」 「よくわからない。民族文化を守るために、日本人との結

  • 連載小説=移り住みし者たち=麻野 涼=第103回

    ニッケイ新聞 2013年6月26日  短期訪問団の日程には沙里院も含まれ、沙里院旅館で昼食を摂る。それが共和国で暮らす帰国者にも伝わり、短期訪問団が沙里院を訪れる日には、沙里院旅館の前に帰還家族が集ま

  • 連載小説=移り住みし者たち=麻野 涼=第88回

    ニッケイ新聞 2013年6月5日  ソウルには三人の子供が結婚し、孫が生まれていた。最初に彼女一人が帰国した。日本に足場を作り、その後に韓国内の家族を次々に呼び寄せた。  韓国から帰国した直後、鶴川は

  • 連載小説=移り住みし者たち=麻野 涼=第104回

    ニッケイ新聞 2013年6月27日 「わしらは祖国が在日を温かく迎えてくれると信じて疑うことはなかった。しかし、家族と再会してはっきりしたことがある。在日は共和国では差別されているし、共和国は国家再建

  • 連載小説=移り住みし者たち=麻野 涼=第89回

    ニッケイ新聞 2013年6月6日 「おばあちゃんは日本人なんだから、日本にいればいい。でも、俺たちは韓国へ帰ろう。ここは俺たちの国ではない。韓国人から石を投げられてもそれは仕方ない。それはオカエシだか

  • 連載小説=移り住みし者たち=麻野 涼=第105回

    ニッケイ新聞 2013年6月28日  帰宅すると、炬燵に入ろうとする母に伝えた。 「これから手続きを開始して、いちばん早い訪問団に入れるのはいつなのか聞いてきて」  幸代のその一言を待ちかねていたよう

  • 連載小説=移り住みし者たち=麻野 涼=第90回

    ニッケイ新聞 2013年6月7日  ベッドの横に置かれた小さなテーブルの上には、氷と水、ロックグラスにニッカの「G&G」のボトルが並んでいた。サントリーオールドより越路吹雪のCMが流れる「G&G」の方

  • 連載小説=移り住みし者たち=麻野 涼=第106回

    ニッケイ新聞 2013年6月29日 「審査結果は出次第、こちらから連絡させていただきます」  一週間と言っていたが、五日後には結果が出ていた。融資可能という返事が電話で入った。三百万円とこれまでに蓄え

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