「お前さん、わしが長い間、女の髪で作った馬の轡や端綱を使っていたこと知ってるかね?……もっとも、そのことにまったく悪意はなかったんだが」 ずっと後で、髪の主が死んだと聞いた。それを知ってすぐに馬で駆けつけ、通夜から埋葬まで付き合った……。遺体を墓穴に降ろしたとき、まだピチピチの娘だったころの髪で作った轡や端綱を柩の上に放り込んだ ...
続きを読む »ガウショ物語=シモンエス・ロッペス・ネット著(監修・柴門明子、翻訳サークル・アイリス)
ガウショ物語=(25)=皇帝の伝令=<3>=慈悲深い陛下のお気持ち
また、別の折、車座になっておったのだが、一人が短刀で掌のトウモロコシの皮を伸ばして、編み煙草の一切れを刻み始めた。刻んだやつを掌のくぼみでよく捏ねてから、さっきのトウモロコシの皮で包んで巻き煙草にすると、自信たっぷりに陛下に勧めたもんだ。「ひとつ、いかがでしょうか」「いや、結構だ。その煙草はどうもきつそうじゃないか……」「いや ...
続きを読む »ガウショ物語=(24)=皇帝の伝令=<2>=陛下から秘密の特命授かる
万一しくじりを仕出かしたりしたら、ただでは置かんぞ! と言った。 何てこった!……しっかりとした足取りで、赤髭の前五歩ほどのところで直立不動の姿勢をとった。 すると老将軍が訊ねた。「今、話しているのは誰だかわかるかね」「皇帝様でありますか」「皇帝陛下、というんじゃ」「皇帝陛下!」 あの、いつも皆が噂をする皇帝だったのか。皇帝は ...
続きを読む »ガウショ物語=(23)=皇帝の伝令=<1>=パラグァイ戦争で従卒に
一八六五年のパラグアイ戦争のとき、皇帝ドン・ペドロ二世陛下がご自分の親衛隊を引き連れてこちらにお出でになって、そのときに、わしは牧夫としてあるいは伝令として、それから忠実な従卒として一緒に歩き回ったもんだ。陛下の馬に馬具をつけることや、寝所の入り口に横になって張り番をしたり、大切な書類や武器を運んだりした。 どんなわけでそうな ...
続きを読む »ガウショ物語=(22)=雌馬狩り=<3>=「無茶苦茶にいい気分さ!」
そこで男たちは群を両脇から押していった。本当の楽しみはこれからなんだ! 中でも足の速い馬を三頭、四頭、五頭も一まとめに駆り立てる、そして休む間も与えずに六レグアも一〇レグアも、一二レグアも走り続けさせる……そんな後でも、わし等はまだまだ元気いっぱいだった!…… 無茶苦茶にいい気分さ! マテを飲み、雌馬どもを走らせる、これに代わ ...
続きを読む »ガウショ物語=(21)=雌馬狩り=<2>=「馬は三本足で歩き出す」
腕に自信のないやつでも少なくとも二組のボーラを携えていたが、大抵は三組用意していたし、五組も持っているやつもいた。一組は手に持ち、残りは腰にぶら下げていた。 これらのボーラはすべて小さい石を使っていて、実に旨くできていた。というのも、知っての通り、馬というのは牛に比べて骨がうんと細いからだ。それで、重いボーラが当ると、当り場所 ...
続きを読む »ガウショ物語=(20)=雌馬狩り=<1>=草原のいたずら者「チビ黒牧童」
もしお前さんがあの頃生きていたら、わしは何もいうまい。ことさら耳新しい事などないからな。だがあんたは若い。年から言えば、わしの孫くらいなもんだ……だから、まあ、聞きなされ。 あの頃は全てが開けっぴろげで、広大な牧場が一面に広がっていたが、柵も仕切りもなくて地続きだった。それぞれの境界線は、一応分割された土地として登記所の地図に ...
続きを読む »ガウショ物語=(19)=老いぼれ牛=<2>
未練がましくカビウーナが相棒を探して、たまに近くまで寄っていやな臭いをかいでいると、群がっているハゲタカどもがヨチヨチと離れる。腐った血をなめたり、ドウラードの肉の破片を飲み込んだり、吐いたりしながら……。 黒い悪魔みたいなこいつらほど憎らしい奴はないね! だがな、カビウーナが一頭になったら牛車が引けなくなっちまったんで、それ ...
続きを読む »ガウショ物語=(18)=老いぼれ牛=<1>=人も時に畜生よりむごい
いやはや!……人間ってのは、時に畜生よりも酷(むご)いことをする! お前さんだって、身の回りをみれば、惨たらしい場面に出くわしたことが何度もあるんじゃないかな。……そうさ、わしには忘れられん話がひとつある……。たぶん死ぬまで忘れられんだろうな……、ちょうど、女乗りの老いぼれ馬に乗って尻を真赤に腫らしてしまったことが忘れられんよ ...
続きを読む »ガウショ物語=(17)=チーズを食わせろ!=<2>
相変わらずの忍耐強さで、爺さんはようやく自分の昼食の注文をした――卵と腸詰一切れ、それにコーヒーだ。それからチーズを切りはじめた。まず半分に、そして、その一つを八つか十切れくらいに切り分けた。切り終ると、みんなに勧めた。「さあ、やってくれ!」 礼は述べたがだれも手を出さなかった。そこで、爺さんはしつこく催促していた男に言った。 ...
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