パナマを越えて=本間剛夫
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パナマを越えて=本間剛夫=7
翌朝早く甲板に出て体操をしていると、ボーイが、船長がお話ししたいと待っている、と迎えに来た。 船長室に入ると船長は「ベレンは二年ぶりでしたが、街並みは変わってませんね。海岸の草葺き屋根の家並みも同じ
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パナマを越えて=本間剛夫=6
夕暮れの灰色の風景の中でユーカリの梢が川風に揺れていた。多くの山脈に源を発するこの大河は、無数のせせらぎを集めて一本の流れとなって大西洋に注ぎ、南米第一のアマゾン川となる。 こんな広大な川を八千トン
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パナマを越えて=本間剛夫=5
そのあと、ふと、部屋に漂う異臭に気づいた。かすかな硫黄の匂いが鼻を突いた。その時、パーサーが入って来て、二冊の旅券を船長に渡した。船長はそれを開いて丹念にページをめくった。「福田さん、これは日本とブ
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パナマを越えて=本間剛夫=4
ブラジルの農業移民は、ドイツ人もフランス人も日本人も、農業省の管轄下にある移民会社から割り当てられた耕地で、苦難なコロノ(小作人)として十余年、牛馬のように働いて独立農としての資金を蓄える。その実態
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パナマを越えて=本間剛夫=3
「つらいから、見送りませんよ」という夫妻が、早く帰ってね、と繰り返した。車が走り出しても二人が手を振ってるのが見えた。 大通りは、もう車の列だ。車が桟橋に入ると遥か突端に、日の丸を掲げた黒い貨物船が
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パナマを越えて=本間剛夫=2
なかには永住の覚悟で大農場の農夫として汗を流している知人、友人が、グループを組んで戦争に参加するというニュースを邦字新聞で知らされると、自分は卑怯者ではないかと強くさいなまれたが、それでも固く瞼を閉
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パナマを越えて=本間剛夫=1
「旅券を持って、来てくれ」 朝、まだ早いのに、店長からの電話だ。 彼は早口にいって電話を切った。用件を訊くいとまもなかった。一瞬、不可解な電話を反芻した。旅券を持って来い、というのには海外出張に違いな