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パナマを越えて=本間剛夫

パナマを越えて=本間剛夫=97

 待つほどでもなく二人の若い女性が姿を見せ、一人が自分はパウリーナと名乗り、同伴の女性をターニアと紹介した。大使館の中には昼食時で誰もいない。私は面接室に二人を招いて向かい合った。パウリーナはドイツ人といいながら流暢なスペイン語を話した。二人ともアルゼンチン生まれのドイツ系だった。 私はエスタニスラウがこの町に来たはずだがという ...

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パナマを越えて=本間剛夫=96

 私は昨日はサンファンを見、今日はこちらの移住地が立派だと聞いてきました、と率直に答えた。「じゃ、うしろの車にお乗んなさい」と老人は馬を止めてくれた。「わたしたちはアメリカさんのおかげで、ラクな暮らしができるようになりましたです」と満足げに馬に鞭をいれた。 老人は途中、雑貨店にメリケン嚢を担ぎ込んですぐに出てきた。老人はそれから ...

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パナマを越えて=本間剛夫=95

 私は組合事務所の職員たちに勧められて三日を費やして移住地の農家を訪ね廻った。どの家族も過ぎた十年間の苦労を、今では懐かしい思い出として話してくれるのが嬉しかった。 移住者たちはめいめい五〇ヘクタールのジャングルの大半を開拓して見事な農地を経営していた。産物の大部分は隣国ブラジルの市場に出せるようになったという。 小学校も完備し ...

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パナマを越えて=本間剛夫=94

「日本からですか。珍しいですね。日本からの訪問者は年に一人か、全く来ないこともあるんですよ。私たちは日本政府の棄民政策でここに入れられたんです。しかし、自分らの苦労の歴史よりも、現在、母国のすばらしい発展は、そんなことは忘れて日本人としての誇りをもてて辛いを感じる方が強いです……。ここの農産物も年々周りの国々へ出るようになりまし ...

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パナマを越えて=本間剛夫=93

 小屋の中は黒かったが、老爺がカンテラに火を入れると闇の中から少年と少女二人の顔が浮かび上がった。青年が老夫婦に私を日本人の友人だと紹介した。私たちは旅装を解いて土間に座り込んだ。老婆は土間の隅で夕食の支度を始めるかと思っていると、黄色い厚い煎餅のようなものを差し出した。「食べろ」というらしく何か呟いた。青年にならって私もおし頂 ...

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パナマを越えて=本間剛夫=92

 そういってエスタニスラウは一枚のカードに二人の女性の名と住所を書いて私の手に握らせた。          ◎ 私は日本を発つ前の十日間、南米における農民の革命運動とはいえない農民の暴動に関する資料を集めて読み漁った。農民といってもそれは白人系に限られたもので原住民はいつも運動の埒外にあった。白人国のチリを除いて総ての国に土地問 ...

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パナマを越えて=本間剛夫=91

 私は驚いて男の顔を見つめた。濃い髭ずらのエスタニスラウなのだ。懐かしいポルトガル語だ。彼は私の肩を抱いて髭ずらを私の頬にこすりつけた。私は直感した。エスタニスラウがここにいるなら、ゲバラもここだ。次の瞬間、小心な私は身の危険を感じた。私は旅商にエスタニスラウをブラジルの友人だと紹介すると彼は「奇遇ですね」と言い残して部屋へ戻っ ...

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パナマを越えて=本間剛夫=90

「ハポネスだね。ここへ何しにきたんだ」穏やかな口調だ。「サンファン」「ああ、日本人移住地だね。あんたは移住者じゃないね。どんな用事で? 職業は?」「友人を訪ねるんです。ラパスの大使館に勤めています」 私は胸のポケットから大使館発行の身分証明書を出して見せた。兵隊はその証明書の写真と私の顔を見比べていたが、本人と納得した様子で「あ ...

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パナマを越えて=本間剛夫=89

 彼らがサンファンに着いたとき僅か五、六ヘクタールばかりを伐採した空地があるだけで周辺は昼なお暗いジャングルで大木が聳え、その下は密生した草木で覆われ、わずかに獣類の通路と思われる踏まれた雑草の窪みがあるだけだった。 西川は二万ドルの資金を用意していたというが、その大半は移民のために費やし、しかも現地に到着しても日本政府が約束し ...

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パナマを越えて=本間剛夫=88

 いよいよコルンバを出発、国境を越えて汽車はボリビアへ入ったが、移民たちは目的地に近かずいた喜びと安心よりもショックの方が大きかった。サントス出発以来、西北に向かうにつれて周囲の風景は次第に「文明度」が薄くなり、国境を越えると、とたんにそれは大きな落差をもって低下した。通ってきたブラジルの田舎ではペンキがはげ、屋根瓦は古びた一軒 ...

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