寝台も4本の土台を打ち込み、ヤシの4つ割の上に蒲の干したものを敷いて寝るようになったのだが、王様にでもなった気分。宮殿は出来た。あとは便所と風呂と井戸が残ったが、水は当分、小川から汲んで来て使う。風呂はドラム缶と決めてある。今まではお湯を沸かし行水していたが、7月、8月は寒い目にあった。今度はドラム缶を使うので極楽だ。やっと便 ...
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連載小説=子供移民の半生記=家族みんなで分かちあった=異郷の地での苦しみと喜び=中野文雄=12
労働者側から見たら、充分な食糧も配給して貰えず、食券で指定の売店でしか物が手に入らないというのも、耕主の専横ではなく政府の政策によるものであり、耕主も労働者も双方被害者であるというのが当時のブラジルの姿であったらしい。 1930年代からの移民の語りに依れば、バウルーとサンマノエルの中間の原野に大きい倉庫があり、広大な地域に鉄條 ...
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コーヒーの採集は大変な仕事なのだそうだ。この時期になると、朝早くは霧がかかり、露が多くて下半身はびっしょぬれる。うっすらと霜も降りる。青い実は落ちにくく、手は痛く、血がにじみ出る毎日だ。それが6月の末ごろまで続くらしい。叉コーヒーの木には蜂の巣や毛虫も多く、毛虫に触れたら火に焼かれたように肌が痛み、その日一日中苦しむそうだ。ま ...
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その夜は思わぬご馳走に、皆満腹で早くも眠くなったらしく、ゆっくり話の続きを聞きたい母は、急いで湯を沸かすと子供たちを行水させ寝付かせた。「文しゃん、1カ月ぶりに家に帰って来たが、もう立派になった様だね」と言って母は褒めて呉れた。 自分もやはり色々と考えさせられて、心が広くなったと感じた事は確かだ。人間としては成長したのでは、と ...
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ジャルジネイラが着いたのは午後4時頃だった。久さんは早く帰りたいのだろう。4時過ぎでないと便が無いので、それまでに鶏を箱から出して水を飲ませねばとも話していたが、箱の中で騒いでいる鶏は出したら逃げるだろうと思い、箱から出せず、餌もないが1日位では死なないからと、そうこうする内にもう時間だと久さんは帰ると言い、荷物があるので用心 ...
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どうやら60キロ位まで腕は上がったが、それ以上にはならなかった。でも人並ほどにはなれたので手伝いに来て恥をかかずに済んだ。久さん、忠男さん、智さん信一さん等皆と一緒に棉を摘み、日曜日の休みには小川に魚釣りに行ったりして遊び楽しい日々を送った。 すぐに明日は帰るという日が来た。大塚さん宅では丸い釜でパンを焼き、その後で鶏を2羽丸 ...
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病気になったら働けぬ。仕事が出来なければ耕主の得にはならぬ、とその道理を説いて借して貰えれば、双方の得となる。体力の限界は何としても避けなければならない。耕地を離れ、大塚さんの手伝いに来てはじめて気が付いた。なぜもっと早く気付かなかったのだろう。そうと気が付いたら何だか元気が出たように思える。 もう、ここに来て何日になるだろう ...
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「行きはよいよい、帰りは恐い」のごとく、来る時には初めて耕地の外に出て、嬉しさと物珍しさで気が付かなかったのだが、所々牧場の中を通って来たらしく「気の荒い牛に追われて、息絶え絶えに逃げ、恐かった」の話を思い出し、急に恐くなった。 遠い丘の上の牛の群れを尻目に、1リットルの酒のビンを持ち直すと急ぎ足で家に帰った。家でも初めて使い ...
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ただ一つ困ったのは食べ物だ。子供の自分でさえ困ったと感じていたのに、両親はどんなに辛かったのだろう。米は有るとはいえ、屑米でパラパラしてまずい。日本にいたときは、白米は自家作、野菜も有り余るほどで、食べ物の不自由なく暮らしていただけにかなり辛かった。もう2カ月も過ぎたが、働くだけで金は見たことも聞いた事もなく、満足な食べ物もな ...
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私たちは早速バナナやみかんに手を出し、さっきまでの疲れと気落ちもどこへやら、腹いっぱいにご馳走になり、いつの間にか荷物にもたれかかって眠ってしまった。肌寒さを感じ目が覚めたとき、「コケコッコー」と一番鶏の鬨の声。ブラジルにも鶏が居て、日本の鶏と同じ様にうたっているのが嬉しかった。早く外に出てみたかったが、ブラジルには毒蛇がたく ...
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