自伝小説=月のかけら=筑紫 橘郎
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自伝小説=月のかけら=筑紫 橘郎=(34)
それでも早めにエコノミークラスの通路側に席を取り、寝た振りを始めた。千年君、どう見ても見られた者じゃないが、飛行機は定刻の一時半、滑るように走り出した。こうなると千年君、安心したのか、少し眠気を感じ
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自伝小説=月のかけら=筑紫 橘郎=(33)
そのうちパウリスタ新聞、サンパウロ新聞にチラホラと記事になり出すと思っていたら、今野氏が全伯民謡で優勝し、千年は日本民謡協会ブラジル支部の役員に。何が何んだか、わけが解からないうち、盛んに宮城県人会
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自伝小説=月のかけら=筑紫 橘郎=(32)
今野さんが「あそう、実は俺はバンコ(銀行)に少しばかり借りがある。これを明後日までに返えさないと、後の融資を受けられなくなる。三日で良いから貸してくれないか。必ず三日目には返す」と頼む。「ああ仕方な
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自伝小説=月のかけら=筑紫 橘郎=(31)
いつの間にか見知らぬ市場の先輩らしい人が、親しく声を掛けてきた。彼らが「そこらでコーヒでも飲みますか」と誘ってくれた。 彼に付いて行って、コーヒ店で色々と話してくれた。どうやら、この人は宮城県人の様
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自伝小説=月のかけら=筑紫 橘郎=(30)
先の古里の父の手紙には、「誰がお前の様な者を日本の親元まで訊ねて下さるか。この様なご厚意の方をけして無にするでない」と孫達の事まで得々と書いてあったのだ。 そして一九六七年一一月、カンピーナス一三〇
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自伝小説=月のかけら=筑紫 橘郎=(29)
すると中から、二人の紳士が降りてきた。太郎は飛んでいき、二人に最敬礼をした。妻幸子が玄関のドアを開けながら、「貴方、はいってもらいなさい」と声掛けた。 太郎は二人を促して家に入った。「いやー、留守で
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自伝小説=月のかけら=筑紫 橘郎=(28)
そこに連れて行き、時計修理見習いで、2人とも住み込みで働かせて貰う事が決まった。もちろん二人の保証人は千年太郎で有った。幸いこの二人は、店主に気に入られ、四年後には店を譲り受け大繁盛。また、その三年
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自伝小説=月のかけら=筑紫 橘郎=(27)
「実は近々、もう一か所、種鶏場を新設する事にしたが、岩田さんがどうしても年齢的に自分は無理だと引受けてくれない。そこで岩田さんが、ミランドーポリスで実績のある君に決めて、住宅を用意した。君が来てくれ
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自伝小説=月のかけら=筑紫 橘郎=(26)
「おいおい誰かは無いだろう」と押し問答の最中、後ろから白いベンタル(上っ張り)を着た技師の中村さんが手を振りながら走って来た。そして、またその後ろから、先の理事長さんが白いベンタル姿で、これまた飛んで
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自伝小説=月のかけら=筑紫 橘郎=(25)
千年は「私が誠心誠意アタックしてみます。笑わないで下さい。これは私が単身、家族に別れ、ブラジルに渡る時から心に誓った信念のひとつです。ですから、私はあの幸子と言う娘が欲しい。一生離れはしません」と一