前節の藤野純三のような戦勝派が「日本は負けるはずがない」との信念で固まっていたのは、戦前移民の大半は「5年、10年したら金を貯めて日本に帰る」つもりでいたことに関係する。 1939年に刊行された現勢調査報告書『バウルー管内の邦人』(輪湖俊午郎編)の巻頭で、在留邦人の実に85%が「帰国」する意向だと答えた。この人たちの多くが、戦 ...
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第44回ふるさと巡り=メキシコ、交流と歴史の旅~榎本殖民地を訪ねて~=(6)=榎本殖民の「夢の跡」へ=墓石に残る日本人の名
恥ずかしながら最後まで地名が覚えきれなかったのだが、一行はトゥストラ・グティエレス(tuxtla gutierrez)まで飛んだ。隣国グアテマラに面したチアパス州の州都で、約50万人の都市である。夜、空港に着いたとき、90人の日本人を地元に人が珍しそうに見ていた。観光名所もないし、こんなに多くの日本人が来ることもないのだろう。 ...
続きを読む »終戦70年記念=『南米の戦野に孤立して』=表現の自由と戦中のトラウマ=第22回=岸本は勝ち組か負け組か
暁星学園の卒業生は「岸本は負け組だった」と言い、パ紙OBは「勝ち組だった」と評価が平行線だった疑問を、第6節で書いた。この点に関し、『戦野』を読むかぎり〃勝ち組的〃としか言いようがない。いわば〃心情的勝ち組〃だ。 認識派が触れたくないブラジル官憲の弾圧を果敢に書く一方で、「日本は負けていない」という戦勝論者と同じ〃思想的土俵〃 ...
続きを読む »終戦70年記念=『南米の戦野に孤立して』=表現の自由と戦中のトラウマ=第21回=ブラジルを裏切ったユダ
《キシモトはユダの微笑を顔に浮かべながら、手にはブルータスの短刀を隠し、彼の息子たちを温かく迎えて彼自身も帰化した祖国(編註=ブラジル)を裏切った》。ミランダ報告書を受けて、DOPSのロッシャ警部補は48年4月29日付の報告書で、そう憎しみを込めた書き方をした。 ユダはキリストを裏切ったとされる弟子、ブルータスはローマ末期の独 ...
続きを読む »第44回ふるさと巡り=メキシコ、交流と歴史の旅~榎本殖民地を訪ねて~=(5)=日墨協会挙げての大歓迎=ティオティワカンに登頂
「富士山通り」に日墨会館は建っている。大きな駐車場にバスが着くと、役員、会員のみなさんが入母屋式の会館前で迎えてくれた。 第二次大戦中、日本とメキシコは国交断絶し、当時メキシコ市にあつた日本公使館の資金が凍結された。しかし平和条約締結後、55年には日墨文化協定が結ばれ、56年には凍結資金全額(約2200万円)が解除返還された。 ...
続きを読む »終戦70年記念=『南米の戦野に孤立して』=表現の自由と戦中のトラウマ=第20回=元親日派ブラジル人ゆえの岸本攻撃
DOPS調書には『戦野』の翻訳をした「マリオ・ボテーリョ・デ・ミランダ」が書いた翻訳者所感が書かれた報告書(48年4月22日付)も挟み込まれている。 いわく《この本には疑う余地もなく、主に戦争中において祖国(日本)から孤立してここで苦しむ日本人への圧迫、ブラジルでの残酷さへの警告に加え、批判的な意見や表現が見られる》とし、まえ ...
続きを読む »第44回ふるさと巡り=メキシコ、交流と歴史の旅~榎本殖民地を訪ねて~=(4)=クエルナバカの大聖堂=意外な日本との繋がり
小雨の降る中、一行はメキシコ国立自治大学(UNAM)へ。1551年創立で、わずか4カ月前に創立されたペルーのサンマルコス大学に次ぐ南北アメリカで2番目に古い大学だ。三人のノーベル賞受賞者を輩出している。 アステカやスペイン植民地時代の歴史が巨大な壁画で表現されている中央図書館が有名だ。約40の研究所や博物館、学部の建物があり、 ...
続きを読む »終戦70年記念=『南米の戦野に孤立して』=表現の自由と戦中のトラウマ=第19回=エリート二世の心の傷
移民の子供としてブラジルに生まれ、複数の大統領すら輩出するUSP法学部、難関の医学部に苦労して入学して得た「USP学生」というエリートの肩書はなんだったのか――。ただでさえデリケートな思春期、誇り高い彼らは〃事件〃の体験に打ちのめされたに違いない。 そんな忸怩たる思いで、1週間の獄中生活を送った。その時間が彼らに「ブラジルの怖 ...
続きを読む »第44回ふるさと巡り=メキシコ、交流と歴史の旅~榎本殖民地を訪ねて~=(3)=世界唯一の日系インター校=辿り着かないメキシコ料理
メキシコ学院はかつて、日墨学院と言われていた。メキシコの漢字表記は「墨西哥」だからだ。しかし、「墨っていうのも…」という声があり改称されたようだ。 1974年に両国の文部大臣が会談した際に案が出て、同年にメキシコを訪問した田中角栄首相が「早期開設を支援」する声明を発表。翌年に6月に社団法人(LICEO)として発足した。始業は7 ...
続きを読む »終戦70年記念=『南米の戦野に孤立して』=表現の自由と戦中のトラウマ=第18回=「湖で潜水艦建造」容疑
戦中に強いトラウマを抱いていたのは、必ずしも戦前の日系社会指導者層だけではない。たとえばエリート二世層の代表の一人、翁長英雄だ。 彼は臣道聯盟の記事を次々と書いて注目されていた。臣聯関係に限らず、緻密な取材に裏付けられた記事を発表し、時には警察官の悪事を暴き、「刑務所からでたらまず貴様を殺す」と予告されたこともあった。 ルポの ...
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