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日本移民108周年記念=囚人の署名 平リカルド著 (翻訳)栗原章子

日本移民108周年記念=囚人の署名 平リカルド著 (翻訳)栗原章子=(29)

 マツモトは長年にわたり苦しんでいたのだが、末娘が長患いの後に死んでからは、働かなくなり、エスタソン広場の店に借金を重ねていた。借金を払うことを執拗に迫られ、また、脅迫もされ、マツモトは借金を取立てる店主とそれを止めようとした店に居合わせた二人の客を殺してしまったのだ。 彼は逮捕され、拷問を受け、もよりの警察署の小さな牢屋に投げ ...

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日本移民108周年記念=囚人の署名 平リカルド著 (翻訳)栗原章子=(28)

平英新

 ジーン・ルッセルやリタ・へイワースといった上品な女優に魅せられていた。その頃の女性はハリウッド女優の髪型に憧れ、同じような髪型をしたがっていたのを知り、英新は理容師の勉強を始めることを思いついたのだ。 リベルダーデ区の理容師協会に申し込み、ウェーラ美容製品社の講座も受け、その後、すぐ彼は美容師として働き始め、ベレン区のカツンビ ...

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日本移民108周年記念=囚人の署名 平リカルド著 (翻訳)栗原章子=(27)

 組合の墓地は十字架で埋まり、手狭になったほどである。居城半藏の両親を含めた小数の者だけが生き残り、そこで築きあげた少しばかりの財産を投げ出して、移民収容所に助けを求めたのだった。地獄から抜け出した家族は浮浪者のような格好でやっとのことで移民収容所にたどり着いたという。 居城半藏の一家はバストスに送られた。バストスでは兵譽と半藏 ...

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日本移民108周年記念=囚人の署名 平リカルド著 (翻訳)栗原章子=(26)

第8章  恩赦 戦争が幕を閉じる前後から、ブラジルでは臣道連盟が活動しはじめた。臣道連盟は1945年に創立された組織で、一世(日本生まれの日本人)やその子孫でありながら、日本帝国への忠誠心を欠いたりした者に対して、暴力行為を実施していた。 戦争が終わると同時に、日本の敗戦を認める人々「負け組」と、「勝ち組」の強硬派は抗争をはじめ ...

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日本移民108周年記念=囚人の署名 平リカルド著 (翻訳)栗原章子=(25)

 (フォーリャ紙記事のトルーマン大統領のコメントの続き)原子力を公開することは人類の新しい時代への理解へと繋がる。原子力は、将来において、石炭、石油や水力発電などを補強するものとなるであろうが、現段階では商品化まではこぎつけていない。その段階に達するまではまだ長い時間を必要としている。 我が国の科学者、政府機関などの規律には、科 ...

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日本移民108周年記念=囚人の署名 平リカルド著 (翻訳)栗原章子=(24)

ミズーリ艦上の終戦署名。署名する梅津美治郎陸軍大将(See page for author [Public domain], via Wikimedia Commons)

 (フォーリャ紙記事のトルーマン大統領のコメントの続き)1939年以前、科学者は原子力を隔離することは理論的には可能だとの結論に達していた。 しかし、実際には誰もどのような方法を取ればいいのかを知らなかった。1942年に、ドイツが世界を手中に収めるためにその他の武器の開発に原子力の威力を利用することを考え、その研究に没頭している ...

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日本移民108周年記念=囚人の署名 平リカルド著 (翻訳)栗原章子=(23)

原爆投下を決断したトルーマン大統領(By Greta Kempton (Harry S. Truman Library) [Public domain], via Wikimedia Commons)

 「歩いていたら、1機の飛行機の音が聞こえた。空を見上げるとアメリカの戦闘機のB―29が飛んでいて、2つのパラシュートが投下された。突如として大きな光が見え、私はそのまま気を失ってしまった」 何年か後にイギリスの新聞「ザ・タイムス」のインタビューで彼はこのように回顧している。 大火傷を負ったものの山口氏は翌日、長崎の自宅に帰りつ ...

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日本移民108周年記念=囚人の署名 平リカルド著 (翻訳)栗原章子=(22)

広島に投下された原爆によって巨大なキノコ雲が生じた(米軍機撮影、By Enola Gay Tail Gunner S/Sgt. George R. (Bob) Caron [Public domain or Public domain], via Wikimedia Commons)

 イーリャ・グランデで日本人囚人たちは原爆投下のニュースを知らされた。一九四五年八月六日付けの新聞は、太平洋戦争についての混乱したニュースを報道した。ある新聞はアメリカ政府の発表をそのまま記事にしていた。つまり、史上最も威力のある新しい爆弾が試しに使われたというものである。 広島の原爆は人類で最初の原子力による攻撃として、戦争史 ...

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日本移民108周年記念=囚人の署名 平リカルド著 (翻訳)栗原章子=(21)

第7章  原爆投下の知らせ 第二次大戦が激化し、ブラジルの陸軍や空軍の兵士がヨーロッパ前線に送られることになった。またブラジル政府は枢軸国に属する囚人たちをリオ州、イーリャ・グランデの島にある拘置所に移した。そのころ、リオ州はブラジルの首都であった。このような状況のなか、日本人もまた同島に移されていた。 かくして、一九四〇年より ...

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日本移民108周年記念=囚人の署名 平リカルド著 (翻訳)栗原章子=(20)

平一家をブラジルに運んだモンテヴィデオ丸

 彼らに共通していたのは、後にしてきた故郷を思う気持ちだった。彼らはよく故郷の思い出を語った。 兵譽はそんな彼らの思い出話を小さな枕を頭に当てて、新聞紙のように薄っぺらなマットに横たわり、聞いていた。床に寝ることなど彼にとって何でもないことであったが、日本の家屋のように材木の匂いがしないことに物足りなさを感じていた。 「正座をし ...

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