連載
-
コスモポリス=1929年のサンパウロ=ギリェルメ・デ・アルメイダ=訳・中田みちよ=古川恵子=(14)=ゴヤのデッサン画――スペイン移民
ルッカス街。その歩道では、タマネギが切り取られたレスチアで子どもたちが遊んでいる。低い円いドアの後ろに、家の中がのぞける。白い壁にぶどうの木の画が描かれている。 テーブルの上にはレース編みのクロース
-
県連ふるさと巡り ペルー=115年経て受け継がれる日系魂=(1)=南米有数の大都市リマへ=雨の降らない灰色の街
第42回となった今回の県連ふるさと巡りは、様々な古代文明が花開いた神秘の国ペルー共和国を巡る旅だった。実に20年ぶりとなった訪秘(秘=ペルー)には88人が参加し、先月末から約1週間かけ、首都リマ、バ
-
コスモポリス=1929年のサンパウロ=ギリェルメ・デ・アルメイダ=訳・中田みちよ=古川恵子=(13)=ゴヤのデッサン画――スペイン移民
サンパウロ市の北西サンタローザ街《註=当時の雑穀取引地区》の午後。ローザ(ばら)の香り? いや、麻袋とタマネギのにおいだ。満腹した太鼓腹があくびをするように、穀物が麻袋の口から転げ落ちている問屋の入
-
コスモポリス=1929年のサンパウロ=ギリェルメ・デ・アルメイダ=訳・中田みちよ=古川恵子=(12)=バルト海の混乱(U長調のシンフォニー)――東欧移民
ひとつの窓にひとつの扉。そこに楕円形の看板がかかっている。花壇のぽんぽんダリアのような白と赤の「郵便局」。覗いて見る。この地区さいしょのランプ――石油ランプ――に照らされて、丸坊主の明るい瞳の男が手
-
コスモポリス=1929年のサンパウロ=ギリェルメ・デ・アルメイダ=訳・中田みちよ=古川恵子=(11)=バルト海の混乱(U長調のシンフォニー)――東欧移民
すべてが混乱している。 例えばエストニア《註=Esthônia》はhがあるのか…レトニア《註=Lettônia》はttが二つなのか…リトアニア《註=Lituânia》はhがつかないのか? 混乱のきわ
-
コスモポリス=1929年のサンパウロ=ギリェルメ・デ・アルメイダ=訳・中田みちよ=古川恵子=(10)=ゲットーの街――ユダヤ移民
「シッー」 夜はどんな風にやってくるのだろうと、すべてが黙り、すべてが止まった。街のにぎわい。周りの空気。ユダヤ教会堂の前に止まる車のエンジンの音などすべてが。 「シッー」静かに! ユダヤ教会堂だ。
-
コスモポリス=1929年のサンパウロ=ギリェルメ・デ・アルメイダ=訳・中田みちよ=古川恵子=(9)=ゲットーの街――ユダヤ移民
さまよえるユダヤ人は、楕円形の曇りガラスの看板の前を通り過ぎた。わたしは立ち止まって読んだ。「カフェ・ヤコブ」。黒い字がソロモンの星(二つの三角形が上下に組み合って六角の星をなす)の下に書かれている
-
コスモポリス=1929年のサンパウロ=ギリェルメ・デ・アルメイダ=訳・中田みちよ=古川恵子=(8)=ゲットーの街――ユダヤ移民
灰の聖水曜日――。ルス駅にかかる茶色の陸橋を横切ったとき、車は濃い雲のように汚れた煙をあびた。すると突然、今日は「灰の聖水曜日」だったことに気がついた。灰色のかたまり。強烈に石炭がにおう黄色い煙のか
-
コスモポリス=1929年のサンパウロ=ギリェルメ・デ・アルメイダ=訳・中田みちよ=古川恵子=(7)=ダブルの生ビール――ドイツ移民
ピアニスト。村のガチョウの気を引きそうな顔した夢見る男。弾いては飲む。鍵盤のそばには生ビール。その視線はさまよう魂のように遠くにある。17世紀のピアニスト、ブルジョアの抒情詩人、職匠歌人(マスターシ
-
コスモポリス=1929年のサンパウロ=ギリェルメ・デ・アルメイダ=訳・中田みちよ=古川恵子=(6)=ダブルの生ビール――ドイツ移民
ベネジチニョス(サンベント)修道院のドイツ製の時計、――時を告げる青銅の鐘が11回鳴る――そのころ夜の幻想がやってくる。天使のようなストラスブルゴの辛抱強い職人たちの魂が、ビザンチン様式《註=ビサン