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唄でつづるカンゲイコ=柔道(1)=頃はよし、寒波襲来=ポッソスとバストスで

8月10日(火)

  ミナス州ポッソス・デ・カルダス市を本拠に柔道を指導している松尾三久さん(61)は、市民からは「センセ」(先生)と呼ばれ、自称は「カンゲイコ屋」だ。寒稽古はいまやポ語化しているので、あえてカタカナ表記とする。いつも、幼少年から成人まで数百人の生徒を指導、貧困家庭のこどもたちには、自腹で柔道着を購入してやったりする。金持ちだから、そうしているのではない。松尾さんの言動に付いて行くと、「ブラジル柔道」の現実の一端(いったん)がわかる。以下は、今年もカンゲイコを指導した松尾さんの〃独白〃である。
 今年は、五月末に寒波が襲来して初霜となり、六月も厳しい冷え込みが続いた。「七月になっても、この寒さが続いたら困るな、どうしてカンゲイコを二つも引き受けてしまったのだろう」と悔やんだが、今年もやっぱり貧乏な生徒らのために、柔道着を百五十着以上工場から買い、その支払いに困って「七月にカンゲイコに行って払うから」と言って、バストス道場(馬掛場卯一郎道場主)から借金をしていたのである。
 もう一つは、サンカエターノ市の指導者で、選手でもあるエルトン四段がやって来て、「サンパウロ市から四十人の生徒を連れて行くから、ミナスの生徒四十人と六日間のカンゲイコをやってほしい。カンゲイコは寒さのきついポッソス・デ・カルダスに限る」と強引に承諾させられてしまったのである。
 自慢ではないが、私は柔道が強くない。昔から試合など出してもらえず、雑用係ばかりで、たまに出れば競馬の「ハルウララ」のように、連敗記録を更新したのである。それでもブラジル人の生徒たちは、ありがたいことに、私の時代錯誤的な柔道理論を聴いてくれて、冬になると、カンゲイコをしようと、呼んでくれるので、私は一端(いっぱし)のカンゲイコ屋のようになってしまった。
 六月にはいって、寒がってばかりいられず、準備を始めた。いつも怠けてばかりいるので、受け身をするだけでも、フラフラである。勉強をしようと、本を読んだり、ビデオを観ても、ピンガのせいか集中できない。
 いつもたくさんの生徒を連れてバストスに行ったけれど、今年はポッソス寒稽古に集中させるため、誰も連れて行かない、と発表したところ、生徒たちは怒り出した。特にプリシーラ君(18)は「私は(バストスの)ウマカケバ先生に電話して、全部本当のことを話すから。先生はピンガを止めるとウソをついて、毎日呑んでいることと、このごろはタバコを吸っていることも、私は全部コンタするからね」と泣いて抗議するのである。
 私はあわてて、生徒の一人であるドトール・フォンテラ(初段)のコンスルトリオに行き、酒とタバコを止める薬を処方してもらい、禁酒禁煙を始めた。(つづく)

■唄でつづるカンゲイコ=柔道=(2)=塩沢良平氏に学ぶ=穏やか控えめな静かさ(2)

■唄でつづるカンゲイコ=柔道=(3)=C疲れ直しに日本の古い唄 喜んで唱和する非日系人

■唄でつづるカンゲイコ=柔道=(4)仲間が骨折したのに=外出したがる生徒に失望

■唄でつづるカンゲイコ=柔道=(5)生徒たちを叱った後悔=修了式、いつもの感激なく(5)

■唄でづづるカンゲイコ=柔道(6)=巨漢がホームシック=ポッソス=頭痛い道場環境〃不全〃

■唄でつづるカンゲイコ=柔道(7)=「終り」よければすべて良し=「また来年も」と生徒に約束