2月16日(水)
「日本人の顔をしていて日本語が分からないのは何だから、覚えて欲しい――」。打田麗子さん(53、三世)は少し寂しげに語った。
ノロエステ日本語普及会役員の真田進さん(63)は合同セミナーで生徒の関心をひくために遊びを取り入れた授業を講義しているのを見て、「こんな子どもに迎合するような教育をするから日本は駄目になってしまったのでは」と少し非難めいた口調で言った。
現在は外国語としての日本語教育が必要とされ、生徒の対象も日系、非日系を問わなくなっている。しかしノロエステ、パウリスタ、ソロカバ三線は日本移民が多く入植したことで知られ、日語教師の中には日系生徒にこだわる人もまだ多い。彼らにコロニアの将来を託すからだ。
バストス校の相原清志さん(69)もその一人。
初めは「日本文化を絶やさないためになんて高尚な考えはない」とぶっきらぼうに言っていたが、次第に思いを語ってくれた。
「どの学校の先生もデカセギに日本語を教えるのは迷惑に思っているところがある」
日本文化も継承したいとの思いが強いため、すぐに日本へ行ってしまうデカセギには教えたがらないそうだ。「でも、言葉を習うのはどんな動機であっても構わない」と強調。「帰国後、空洞化の進むコロニアへ新風をもたらしてくれるはず」という。
「日本文化を少しでもかじっていくと、日本文化の吸収の仕方に大きな差が出る。今の日本語教師はデカセギに日本語を覚えてもらって、そして何倍にもなってコロニアに貢献することを期待しなければならないだろうね」
そこで、デカセギに行く日系人子弟を日語校へ斡旋するよう旅行会社に積極的に呼びかけることを提案する。
相原さんはかつてバストスで養鶏場を経営していたが倒産。その後兄弟や仕事関係の知り合いが日本にいたが、デカセギには行かなかった。
なぜ行かなかったのですか、と聞くと、「若造に使われてたまるか」と大きく口を開いて笑い飛ばした。 文協が一世から二世の手へと移行するのと時同じくして、日語教育も過渡期を迎えた。しかし、そこに、日本人精神や、移民の思いといった大切な何かが置き去りにされてはいないか。そんなことを感じた取材だった。 (おわり)
(米倉達也記者)