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たくさんの出会いに恵まれる幸せ―ふるさと巡り、各地で先亡者慰霊―=連載(8)=急膨張した温泉町で=カウダス・ノーヴァス=デカセギが不動産業で成功

4月30日(土)

 かつて旧ゴイアスには、〃ゴイアスのアレイジャジーニョ〃と呼ばれる有名な宗教彫刻家がいた。Jose Joaquim da Veiga Valle(1806―1874)だ。
 ボア・モルチ宗教美術館には、彼の代表作が集めれている。元々この建物は一七六二年に建設が開始された同名の教会で、州都だった時代に栄えたが一九二一年に焼失。一九六七年に美術館として復元された。
 最も有名な作品は、Nossa Senhora do Partoというお産の神様の像だという。セードロの木で基礎を彫り、周りに石膏を固めて細部を作り、さらに金箔を貼る。目にはガラス、歯には本物の人間の歯を使っているのが特徴。
 ふるさと巡り一行は、最後に元州知事政庁を見学した。一九三七年の遷都以前はここが州政庁だった建物で、当時の家具が残されている。執務室と来賓室が手前に、奥は寝室や居間など生活空間。今でも七月の二十四日から二十七日まで、州都に戻る期間には使われているという。
 リオ市で観光ガイドを営む西崎健吾さん(71、徳島)は、「石畳とか町並みがパラチによく似てますね」と感想を語った。
 昼食後、午後二時過ぎにゴイアス州旧ゴイアス市を出発。第四の目的地である温泉の町、同州最南部のカウダス・ノーヴァス市へ向かった。
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 ふるさと巡り四日目の四月四日。昨晩から宿泊する、二十四時間いつでも温泉プールが施設内で楽しめるリゾートホテル「di Roma」を拠点に少々休憩。
 デカセギした後、同市で不動産業者として成功したという変わった経験を持つ平松章夫さん(49、二世)が、同船者である一行の小山徳さん(65、長野県)に会いにきた。
 平松さんの父、昇さん(77、岡山県)は一九六二年のあるぜんちな丸で家族と共に来伯。当時の章夫さんは、わずか六歳だった。
 最初はグアタパラ移住地へ第四陣として入植。約三年で、ミナス州とサンパウロ州との境にあるカルドーゾ、さらにサンフランシスコ、インジアポランなどへ移転を繰り返した。
 七四年に、カウダス・ノーヴァス市でホテルを営んでいた友人の手伝う話できた。「僕らは小さい頃から親に、学校の成績が悪い時とかに『ゴイアスへ行かせる』とかいって怒られていたから、本当にゴイアスに来ることになって複雑な思いがした」と振り返った。
 「当時は人口一万人、日本人は三家族しかいなかった」という。現在は通常で六万人、一~二月の休暇時期には十五万人に膨れ上がる大温泉リゾートに発展した。ホテルなどの宿泊施設が約百軒、合計五千室を数える。
 父の昇さんは七六年に最初の土産物店を開店し、「ブラジル人に売れるものを」と頭を捻り、マラジョ島風の素焼きの壷や、ハッピを製造販売して成功した。それを章夫さんらが引き継いで五店舗にまで拡大した。
 「それでも満足感がなかった。もっと大きなことをやりたかった」という章夫さんに、デカセギへ行って来たばかりの友人から「日本へ行ってみないか」との誘いがあった。「おやじさんも、若いんだから行ってみろと言ってくれました」という。
 土産物屋経営は弟に任せ、八九年から一年間、静岡県浜松市の富士通の工場で働いた。いったん帰伯した時、建設ラッシュが始まっていた町を見て、デカセギ資金と「日本のおじさんに頼んで農協から借りた六万ドル」を足して、十万ドルで土地を買った。
 その借金を返すために、今度は九一年から二年間、愛知県岡崎市の車関係の工場でも働いた。土産物店も売り払い、兄弟四人と妻、家族全員総出でデカセギした。
 帰伯後、事務所を開き、さっそく建設プロジェクトを作ってアパート販売を始めた。「最初は、みんなに言われた。あのジャポネーズは頭がおかしいって。なんの経験もないのに、売れるわけないから、とね」。
(つづく、深沢正雪記者)

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