5月19日(木)
アウト・パライーゾで今月六日から八日まで、環境がらみのイベント「ENCONTRO DOS POVOS DA CHAPADA DOS VEADEIROS」があった。第四回目の今年、「生物・文化多様性」が新たなテーマに加わった。
国立公園のペドロ・アウベルト・ビゲーリ所長が七日午後のセミナーの中で、IBAMA─JICAのプロジェクトを説明。八九年、九八年、〇一年に国立公園周辺を撮影した写真を提示して言った。
「この近辺の自然は八九年に保護されていたのですが、〇一年になると農地に変わっているのが分かるでしょう」。
明らかに緑が減っており、地域住民たちも納得せざるを得ない。今、国立公園から二十二キロほど離れたトカンチンス川の上流に、ミラドール水力発電所を建設する計画が持ち上がっている。
パラナ川などブラジルを代表する河川の水源となっているセラード地帯。源流域が汚染されれば、下流流域への影響は免れない。長期専門家でプロジェクトリーダーの城殿博さんは「新聞紙上でも、都市化や企業的な農業による水汚染が問題視されている」と話す。
セミナーでは、「水力発電所建設に関する環境アセスメント(評価)には、民有地自然保護区の情報が欠けていて、不十分だ」「エコツリズモの価値が減ってしまう」「皆が団結して戦う必要がある」といった声が上がっていた。
「WWF」「GAMA」「ECODATA」など国内外の環境NGOが活動。エコロジーについて、住民の意識も高まってきているようだ。
IBAMAの管轄範囲は、国立公園から十キロ以内。同水力発電所は州政府の領域になり、IBAMAとしても苦しい立場だ。ビゲーリ所長は「行政の仕組みは、複雑なんです」と硬い表情を浮かべた。
ブラジルは、生物多様性条約の批准国。大統領令や国家環境保護地域システム(SNUC)法に基づいて、政府は多年度計画(二〇〇一年─二〇〇三年)を練った。
これを受けて、パラナ─ピリネウス間に動物の移動経路を確保するため、生態コリドー計画がスタートした。山火事や不法伐採などでセラードの生態系は分断されており、〃緑の回廊〃で環境保全地域を結ぶという壮大な事業だ。ゴイアス州、トカンチンス州、ブラジリア連邦直轄区にまたがり、総面積約十万平方キロに及ぶ。
城殿さんは、一筋縄でいかないのだと明かす。「法の網がかかっているところには、行政権限が及ぶ。コリドー内に私有地も含まれるため、所有者の理解が最大の課題。自然環境を生かした土地利用、自然にやさしい生産活動への切り替えを働きかけていかなければならない」。
シャパーダ・ドス・ヴェアデイロス国立公園とナセンテ・ド・リオ・ベルメーリョ環境保護区が核。(1)関係機関の連携強化(2)保護地域の組替えや新設(3)情報収集・管理(4)環境教育──などを実施している。
生態系の統合的な管理を改善するのが、JICAの目的だ。(1)関係機関や地元コミュニティーの連携促進(2)持続的な自然資源管理について、技術的な提言(3)関係機関の環境教育・意識啓発の活動が成果として求められている。
城殿さんによると、コリドー計画は国内に十二カ所。JICAが携わっているのは、セラードの地帯の心臓部に当たる。長期専門家(三年)二人、短期専門家(一年未満)八人が日本から派遣された。
日本政府が、かつて熱を入れたセラード開発。事業は結局うまくいかず、痛い目に遭った。プロジェクトが〇三年二月にスタートした時、ブラジリアの学識経験者らに揶揄された。
「セラード開発の穴埋めに来たのか」。
(つづく、古杉征己記者)
■セラードの生態系を守れ=―JIACA協力、動物の移動経路確保へ―=連載(2)=過去は開発優先だった=火入れ、動物にダメージ
■セラードの生態系を守れ=―JICA協力、動物の移動経路確保へ―=連載(1)=シャパーダ・ドス・ヴェアデイロス=言葉失うほどの景観