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ルーラ大統領=訪日の成果は=連載(3)EPA=経済連携協定なるか=08年までに=日伯両国政府が声明書

2005年6月4日(土)

 大統領訪日の最大関心事は、やはりエタノール輸出だった。これでもかと関連記事を出すブラジル側メディアに対して、日本側は静観を保った。
 しかし、本当の大きな収穫の一つは、経済連携協定(EPA)を〇八年の移民百年祭までに発効させるよう、両国政府に働きかけていくとの共同コミュニケが発表されたことだろう。これは、日本側は経団連から約八十人、ブラジル側はブラジル工業連盟(CNI)ら約九十人が出席した第十一回日伯経済合同委員会で決められた。
 比較的手厚い報道姿勢をとった産経新聞は、五月二十六日付けで次のようにエタノールの件を報じた。
 「政府は二十五日、自動車や燃料電池発電の燃料として活用できる次世代の非化石エネルギー『バイオマスエタノール』について、ブラジルからの求めに応じて輸入拡大を国内の民間企業に働きかけていく方針を決めた。政府としてもバイオマスエタノールを使う自動車を在ブラジル日本大使館の公用車として試験的に導入する」。
 一方、二十七日付けエスタード通信は「ブラジルは最初のアルコール積荷を日本へ売った」との見出しで、成果を強調する記事を流した。「日本の輸送会社はコーペルスカール(世界最大級の砂糖・アルコール生産組合)と千五百万リットルのエタノール購入契約をした」。
 同記事中、ロドリゲス農務大臣は語った。「我々の期待を上回った小泉首相の(積極的な)態度には正直感動すらした」。首相の決断により、二国間でエタノール輸入に関する作業グループを設置したことは、歴史的なメルクマール(道程)だとまで評価した。
 国営通信は二十七日、パロッシ財務大臣の「メタノールに関しては、期待を上回る結果を残せた」と自己評価を掲載し、いかにも大きな成果があったと強調した。しかし、そうでない声も流れていた。
 インターナショナル・プレス紙同二十八日付けで、拓植大学の桜井敏浩氏はブラジル政府の楽観論に反対し、「エタノール供給者としてのブラジルの能力に対する日本産業界の信頼の欠如がある。製品の数量と品質を維持する能力に疑問があるため、主供給者としてブラジルに頼るのはリスクがある」との見方を紹介した。
 「十年以上かかって日本から課された条件に対応し、日本に鮭や水産品を売り込んだチリの例を見習うべき」との意見を述べた。
 加えて、カルドーゾ大統領が訪日した九六年には二百人ほども集まった天皇主催晩餐会に比較し、今回、二十七日の天皇主催昼食会への出席者は十人程度と慎ましい人数だった。日本側からの、実際の関心の度合いが伺われる。
 一説には、日本側から再三のラブコールがあったにも関わらず、トヨタ自動車(奥田碩会長=日本経団連会長)が力を入れて推進している愛知万博にブラジル政府は出展せず、事実上無視したことが尾を引いているとの声もある。今回も大統領は名古屋まで行って万博会場には足を運ばなかった。
 エタノールは自動車燃料に混入されるわけで、自動車業界や経団連を牛耳る同社がヘソを曲げるようなことをやるのは経済オンチ、との批判だ。
 それ以前に、日本側は従来から脱石油戦略を打ち出しており、その最終的な方向性は燃料電池車やハイブリッド車と言われる。
 エタノールを混入するとしても、燃料電池などが実用化されるまでの数年間の〃中継ぎ〃という位置付けだ。そのために、ガソリンスタンドや貯蔵施設、輸送設備などの改修に何百億円もかけて採算がとれるのかと疑問視する勢力がある。
 一方、前出の産経新聞には「輸入拡大による経済関係の強化によって、経済面でもブラジルへの接近を強める中国に対抗するねらいがあるとみられる」との分析もある。先日は北米でも中伯の急激な接近に警笛を鳴らすレポートがでた。政治情勢もこの動きに影響を与える。
 ただし、EPA締結に向けた動きが今後加速されれば、エタノールでなくとも日伯貿易の新しい柱は生まれるかもしれない。共同コミュニケは「日伯双方は、EPAの役割と影響について、両国政府が産学官の共同研究会を一刻も早く設置することに強い期待を表明した。EPA締結に向けた政府間交渉が開始され、移民百周年を目処として発効に至るよう、両国政府に働きかけていく」とある。
 国連常任理事国入りへの支持を取り付ける必要もあり、若干の歩み寄ったかに見える日本側。本当の意図はどの辺か。今後設置される政府レベルの作業部会内での攻防に注目が集まりそうだ。
(つづく、深沢正雪記者)

■ルーラ大統領=訪日の成果は=連載(2)=デカセギ子弟の教育=10月、日伯両政府で意見交換

■ルーラ大統領=訪日の成果は=連載(1)=日本移民とデカセギ=対等に位置付け