2006年7月5日(水)
「外国人を新たに受け入れるより、今は国内の失業対策が重要なんだ」。
移民政策について尋ねると、ニウトン・フレイタス移民審議会会長(労働省特別補佐官)は、そうきっぱりと言った。
同審議会は労働省、法務省、外務省など関係省庁で構成され、政策案などを検討している。連邦政府内で、発言力も大きい。
それだけに、同会長の言葉にはかなりの重みがある。政権を担っている労働者党(PT)。国内労働者の保護や貧困対策が支持率を左右するのだろう。
国家雇用創出計画で〇三年~〇五年に二百六十万人を労働市場に入れ、国家職業指導計画で同時期に労働者三十八万人に対応した。さらに、若者を対象に五十七万人の就労を生み出した。
雇用創出と所得増大のために労働者福祉基金を使用して、〇三年一月から〇六年三月までつぎこんだ金額は四百五十九億レアル。
フレイタス会長は「(カルドーゾ政権の)九五年~〇二年は、三百四十三億レアルだった。現政権になって、大きく伸びた」と胸を張る。
IBGEによると、失業率(北部の地方を除外)は九五年に六・一%だった。〇二年には九・二%に達した。〇四年に九%に落ち、回復の兆しをみせた。
「雇用創出に当たって、国内労働者が外国人と競合し、仕事を失うことは避けたい」。
移民を導入して未開地を開拓するといった考えはないという。ただ外国人といえども、基本的人権は尊重しなければならない。
そのため、既に入国している外国人労働者に対しては、人権を擁護していこうというのが基本路線だ。
「人道的な立場からも、外国人を保護していかなければならない。奴隷労働のようなものがあっては困ります」。
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ブラジル政府の現移民政策は三カ年計画の予定で、〇四年にスタートした。国内労働者の保護のほか、外国人法の見直しと移民審議会の組織改編が大きな柱だ。
米・同時多発テロ(〇二年九月十一日)に、かなりの影響を受けたとみられる一面もある。
「国家の安全を第一に掲げた、軍政時代に戻ったような厳しさかもしれない」とフレイタス会長。テロリストの侵入を防止する意図もありそうだ。
法務省外国人局のイザウラ・ミランダ局長は「日本との関係でいうなら、ヤクザはごめんだわ」と突き放すような素振りをみせる。
それでも今は、グロ―バル化の時代。多くの外国企業が、ブラジルで経済活動を展開している。そのため、一定の条件を満たす外国人には永住権を与えようとの考えだ。
「外国人の投資によって豊かになり、特殊技術の導入で人材を育成できれば」とフレイタス会長。
一方で、在外ブラジル人は二百五十万人とも三百五十万人とも言われている。不法移民の斡旋や人身取引がちょくちょく告発されているのは周知の通りだ。
政府としても、大きな懸念材料になっている。在外ブラジル人や国外就労希望者を対象に外国の労働、保健、人権などについてガイドを発行していく予定。
労働省、外務省、教育省など関連省庁が集まって、専門委員会を設立しようとしているところ。移民審議会が今後、在外ブラジル人の保護をカバー。「imigracao」から「emigracao」に改称する。
今年十月に大統領選が実施され、政権が変わるかもしれない。フレイタス会長は「例え政権交代があったとしても、移民政策に大きな変化はないでしょう」との見通しを示した。
(つづく、古杉征己記者)