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セラードの生態系を守れ=―JIACA協力、動物の移動経路確保へ―=連載(2)=過去は開発優先だった=火入れ、動物にダメージ

5月18日(水)

 シャパーダ・ドス・ヴェアデイロス国立公園の入り口、サン・ジョルジェ。目抜き通りと言えど、街路は舗装されていない。人々は、レストランや土産物店など観光客相手の商売で、質素な生活を営んでいる。
 「地球の軌道で、もっとも輝いている地点だ」。NASAは以前、同国立公園周辺が際立った存在だと証言した。ガイドのジョゼ・ルシアーノ・マシャードさん(27)は「環境が壊され、公園がなくなったら、町自体が成り立たない」と顔をしかめる。
 この近辺は、クリスタル(水晶)の産地として栄えた。公園内には直径三、四メートルほどの採掘跡が残されており、かつての面影をとどめている。
 サン・ジョルジェは、一攫千金を狙って集まってきたガリンペイロたちによってつくられた集落だ。アウト・パライーゾで、ジョゼ・ライムンドさん(元ガリンペイロ、バイーア州出身)の手記を見つけた。
 五〇年代半ば三カ月で里帰りの費用が稼げると聞いて、成金への夢を掻き立てられた旨が、綴られていた。「運が無かった」らしく、九〇年代に入っても故郷の土を踏むことは一度として無かった。
 因みに、ゴイアス州はブラジルの心臓部でもあることから、宗教指導者やヒッピーに神聖視されている地域だ。JICAブラジル事務所のイノウエ・マナブ・マウロさんは「UFOが来ると、地元住民がよく騒いでいます」という。
 シャパーダ・ドス・ヴェアデイロスは六一年に、国立公園に指定された。内部への立ち入りが規制されたため、クリスタル採掘のブームは去った。これに先立って、ブラジリア建設がスタート。労働者は既に、〃首都〃に流れていた。
 ただ、ガリンペイロが環境に与えたダメージについて、長期専門家でプロジェクトリーダーの城殿博さんは「影響は特に、大きくない」と判断する。
 サン・ジョルジェは、ブラジリアから約二百五十キロ。国道010号を北に走り、アウト・パライーゾで左に折れる。自動車で三時間ほどだ。
 途中、フォルモーザ(首都から七十五キロ)やサンジョアン・ダ・アリアンサ(同百八十キロ)を通った。大豆畑やトウモロコシ畑が地平線の向こうまで広がり、道路沿いに森林と言えるものはない。
 セラード開発に熱が入ったのは、軍政時代(一九六四─八五)だ。一九七〇年代~八〇年代に、急速に農地が拡大。森林伐採や化学肥料などによる環境破壊が進んだ。その後も、開発の手が休まる暇はなかった。
 土壌が出来たのはかなり古いため、一般に酸化がひどく地味が貧しいとされる。「川筋の林でさえ切り倒して、畑に変えてしまった。農薬を使えば使うほど効果があると、誤解する農家がいる」と、城殿さんの表情は険しさを増す。
 州の法令で、千二百メートル以上の高地に手を加えてはならない。禁止区域に、農地が造成されることもあるという。
 ブリチ・ヤシ、イッペー・アマレーロ、カンドンバー、シュベイリーニョ……。セラードに一万種以上の植物が植生している。
 動物相も豊か。公園の名の由来である、ヴェアード・カンペイロ(鹿)、クロアイサ(カモ)、大アリクイ、ジャガーなどがいる。種の保存にとって、価値が大きい。
 森林減少の影響で着実に、数が少なくなっているそうだ。「私自身、まだ目にしたことのないものも…」(城殿さん)。密猟者が侵入してくるのを恐れてか、絶滅危惧種の話になると言葉が少ない。
 「八〇年代終わりまで、保護というより、開発優先の対象とみなされた。乾季の火入れは、動物に致命的なダメージを与えかねないだろう」。
 環境保全について語るとき、セラードは世界最大の熱帯雨林アマゾンに隠れて、くすんだ存在だった。
(つづく、古杉征己記者)

■セラードの生態系を守れ=―JICA協力、動物の移動経路確保へ―=連載(1)=シャパーダ・ドス・ヴェアデイロス=言葉失うほどの景観