5月6日(金)
丸々と実った緑色のカフェの実が、たわわに枝になっている。所々、すでに真っ赤に熟し始めている。「あんまり値が良くなっても困るんですよね。他の人が植え始めるから」と農場主の近藤満州美さんはいう。
ふるさと巡り六日目、四月六日午前、サンパウロ州北部フランカ市近郊のクリスタイス・パウリスタ市にある、近藤さんのカフェ農場を一行は見学した。約二百五十ヘクタールに五十万本が植えられている。年間四千俵(六十キロ)を収穫する。
若い木は、メイヨ・アデンサードというやり方で、三列ずつ狭い間隔で植えられている。三年ぐらい収穫したら、真ん中の列を引っこ抜き、機械で収穫できるようにする方式だ。単位面積当たりの収穫量が多くなる。
また、プランチオ・ジレショナードという太陽光線の方向に畝を作り、万遍なく奥まで光が当たるようになっている。この辺の実際の経営はすでに、ミナス州のラブラス連邦大学を卒業した農業技師、四男のマウリシオ・マコトさんに任されているという。
◎ ◎
カーン、カーン――。厳かに鐘が鳴った。
「よく日本民族の誇りと誠実さを持って、今日の日伯親善の礎(いしずえ)を築いて下さった先人の遺徳に祈りましょう」
リベイロン・プレットのサンパウロ州東北南米本願寺から駆けつけた沢中只夫師が、仏説阿弥陀経を読経するなか、ふるさと巡り一行は静かに焼香の列についた。四月六日午後七時過ぎ、フランカ市内のホテルへ戻った一行は、慰霊法要を行っていた。
沢中師は「このモジアナ地方は九十七年の日本移民の歴史を持つ日本移民のふるさとです。どうか、これからもふるさと巡りを続け、開拓物故者を偲んでいただきたい。その都度、先人のおかげ、今日の私どもがつつがなく過ごせることを思い起こしてほしい」との法話を行った。
午後八時過ぎ、フランカ地域日伯協会の招きでシジネイ・フランコ・ダ・ロッシャ市長が顔を出した。
「一行を迎えることができ大変光栄だ。日本人の貢献は大きい。この町は靴職人の町であり、日本人のように良く働く気質こそ求められている。我々の文化を融合させ、世界へ向けたブラジル靴の窓口になりましょう」と語った。
同市の紹介ビデオも上映された。〃靴の都〃フランカには三万人の靴職人がおり、その多くは一千社もある靴関連工場や、家庭内で靴の下請けをしているという。靴職人一人当たりの平均収入は月三百八十レアルと低いが、三十一万人もの都市にも関らずファベーラがなく、一〇〇%の下水が処理されていることなど、生活水準の高さが維持されている点を強調した。
「二〇〇八年に移民百周年を記念した大きな祭典が、ここフランカでも開かれることを期待しています」との言葉を贈った。
フランカ地域日伯協会の工藤シゲオ会長は「我々の団体はまだよちよち歩きだが、みなさんを受け入れられて本当に嬉しい」と謝辞を述べた。同協会は元々カフェ生産者組合として十二年前に十五人で設立された。現在は誰でも入会できる開かれた組織になり、会員は三十家族に増えた。
一行の団長を務める南雲良治・新潟県人会会長は「地元市長まで来て頂きこちらこそ感謝します。ここでも慰霊祭ができ有難うごさいます」と語った。
(つづく、深沢正雪記者)
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