5月20日(金)
宿泊先で就寝前に、ピンガを頼んだ。一杯一レアル。地元の労働者の間で、最も消費されているものだという。匂いを嗅いだ途端、頭がくらっときた。まるで、病院の消毒液のようだ。
卓を囲んだJICA関係者らは結局飲み切れず、別の銘柄を注文した。一同、地域住民の生活レベルを推し量った。
ガイドに案内してもらった遊歩道は、日本政府の無償協力で整備された。セラード生態コリドー保全計画で、活動の場はむしろ国立公園の周辺地域。関係機関の連携強化を図ったり、住民を対象に啓発運動を展開しなければならない。
もちろん、明日の食料に困る人がいる。道端の吸殻を拾って火をつけるような人に、「持続可能な開発」(自然環境を維持しながらの経済開発)を、どう植えつけていくのだろうか。専門家の腕の見せ所だ。
環境教育に関する会議が六日午後、アウト・パライーゾであった。周辺市町村やNGOの関係者などが出席。IBAMA─JICAのプロジェクトについて、概要などを聞いた。
JICAは、年間四万~五万レアルを拠出。官庁や民間団体のプログラムに五千~七千レアルを支援している。「ミニ・プロジェクト」と呼ばれているもの。「ENCONTRO DOS POVOS DA CHAPADA DOS VEADEIROS」も、今年選ばれた中の一件だ。
席上、「教育教材の作成・配布」や「ゴイアス州全体のガイド会議」など、集まった約二十件の事業計画案が紹介された。今後、実施能力や内容などを見極め、最終的に五件ほどに絞り込む。
これまで、子供たちを洞窟に連れて行って実際に動植物を見させたり、小学校でテアトロ形式の課外授業を行なうなどの意識啓発運動があった。
長期専門家でプロジェクトリーダーの城殿博さんは「学習した内容を自宅に持ち帰って、両親に伝えれば幸いなんですけど」と熱い視線を送っていた。
会議終了後、出席者らに話を聞いた。ジョゼ・ロナウド・ロッチ・カヴァウカンテ市観光環境局長はIBAMA─JICAのプロジェクトを評価した上で、注文をつけた。「地方の文化に基づいた生産の在り方を考えてもらいたいネ」。
乾季の火入れに対して風当たりが強くなってきたことが、気がかりだという。環境に良いか悪いかは別にして、伝統的に行われてきたものだからだ。
「黒人奴隷が開いた集落があり、長らく自給自足の生活を営んでいた。政府が八〇年代に介入してきたため、固有の文化が失われてしまった」。
マルコス・サボイア・アウト・パライーゾ市環境保護審議会会長も「隣りの農地に放火して、延焼してくるのを期待する農家が出始めた」と危機感を募らせた。
生活を向上させて、所得格差を是正することも地元にとって大きな望みだ。
ロッチ観光環境局長は「手付かずに残っている土地の利用を考えたい。大豆か牧畜の二つの選択肢があると思う。もちろん、環境保護をしながらという前提だけど。JICAに、開発のモデルを示してほしい」と期待を込めた。
生態コリドー計画の理想の形について、百家争鳴的だ。多方面の関係者が、同じテーブルについて議論を交わすこと自体、最近になってからだという。
実はシャパーダ・ドス・ヴェアデイロス国立公園が〇一年十二月に、ユネスコの世界自然遺産に登録された。その前後に一時、政府が国立公園を拡大。新たに広がった区域内の居住者に、立ち退きを迫った。
これに対して特に、同国立公園北側のカヴァウカンテ方面が猛反発。訴訟問題にまで発展した。公園の面積は元に戻されたものの、住民にはIBAMAなど行政機関に対する根強い不信がある。
会議後に出席者した一人は、目を輝かせて言った。「政府のほか、多くのNGOがここで活動している。これまでは、バラバラだった。JICAがきて、みんなの意識が変わった」。
(つづく、古杉征己記者)
■セラードの生態系を守れ=―JICA協力、動物の移動経路確保へ―=連載(3)=壮大〃緑の回廊〃づくり=一方で複雑な行政の仕組み
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