2005年6月7日(火)
今回の日本での待遇は「公式実務賓客」で、前回のカルドーゾ大統領時は「国賓」だった。前回は天皇主催晩餐会に二百人の賓客で、今回は午餐会(昼食)で約十人ぐらいだったという。待遇の差は、どのくらいあるのか。
国賓だと迎賓館宿泊で、両陛下による宮中晩餐会やお見送りまであり、随行者への費用負担もある。実務賓客だと迎賓館へは泊まれず、午餐会(昼食)となり、儀礼的には変わる。
ブラジリアの日本大使館によれば、「一番大事なのは首脳会談。天皇陛下にも謁見できるわけだから、実質的には、それほど変わらないのでは」とのこと。
国賓だと三泊四日の滞在が基本で、晩餐会には勲章をつけた礼服が必要。今回は二泊三日で少々短い。加えて「庶民派の大統領は礼服を着たくなかった」との噂も聞く。「初耳です。礼服を着たくないから実務賓客なんて、誰かが面白おかしく言ってるだけでしょ」とは同大使館。
国賓は年に二~三組のみなので、通常「順番待ちの状態」だという。大統領が昨年五月に中国訪問した折、日本に行く話もあった。実はその時、国賓待遇も考えていたが、ブラジル側日程の関係で実現しなかった。その分、順番が後ろへずれ、今回は間に合わなかったのが実状のようだ。
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「メトロでブラジルまで行ければなぁ」。五月二十七日、東京メトロの新橋駅を訪れた大統領は上機嫌で語った(BBCブラジル同二十七日)。在京ブラジル大使館職員の発案で、連邦議会、ポン・デ・アスーカル、北東部海岸など約三百枚のブラジルを写した写真が、車内の吊り広告には飾られた。
「たくさんの日本人がナイアガラの滝を見に行くが、いつかイグアスーの滝にも来てくれたらなあ。もっときれいだと感じてくれるはず」。地下鉄従業員を捕まえ「この写真をきれいだと思うか?」と質問。「そうですね」との回答に、「さらに(美しい)女性たちがいるんだ」と会話は弾む。
女性従業員にも結婚しているのかどうか質問。「まだです」との回答に、「なら、新婚旅行はぜひイグアスーの滝へ」と大統領自ら売り込んだ。(同BBC)
新橋駅前にいた七百人ほどの日本人群集を見て感動し、大統領は突然、握手や抱擁を始め、警備員や日本の外務省関係者を驚かせた。ただし、その群集が大統領だと知っていたかは疑問のよう。
最終日、名古屋でもデカセギたちと積極的に抱擁。エスタード通信は「ルーラは名古屋で抱擁選挙戦術をやった」と報じ、「子どもを抱え挙げてキスし、デカセギに挨拶し、サインや一緒の写真撮影に応じた」という。
テーラ・サイト同二十九日付けは「ルーラは日本でポップスター並みの扱い」との記事。在日ブラジル人企業展示会で「ルーラはどこ。あなたを見るためだけに、わざわざ来たのに」との来場したデカセギの声を伝えた。
ろくに学校もいかず、大統領就任式で「初めてもらったディプロマ(証書)がこれだ」と語り、国民の涙を絞った旋盤工出身のルーラ氏らしく、日本でもデカセギや日本国民との接触は実に庶民的であった。
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大統領は日本のポ語新聞で、山崎千津薫監督の最新作『GAIJIN2』にも触れ、「自らのアイデンティティを再創造しようとする試みや、自らのルーツを探るという普遍的な物語をつむぎ出し、語っている。世代ごとに再生産される人生の遍歴が〃nissei(二世)〃や〃sansei(三世)〃、〃dekassegui(デカセギ)〃などの表現に反映されている」と語った。
このような日語表現が、大統領の挨拶文に使われたこと自体、日系社会の存在感の大きさを示したといえる。専用機内で閣僚らと共に実際に鑑賞し、日本移民の歴史に涙をぬぐった。
庶民派の大統領らしく平服で天皇陛下に謁見し、新橋の街頭で日本人と握手し、名古屋でデカセギと抱き合った。これほど幅広い触れ合いは、前回はなかったと言えそう。
百周年を三年後に控えた今回だったが、残念なことに、百年祭に関する具体的な進展は皆無だった。今後、心して取り組まなければならないだろう。昨年九月の小泉首相訪伯以来、弾みをつけた日伯関係に新しい、親しみやすいページを刻んだようだ。
(終わり、深沢正雪記者)
■ルーラ大統領=訪日の成果は=連載(3)EPA=経済連携協定なるか=08年までに=日伯両国政府が声明書