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カザロン・ド・シャ保存運動――中谷哲昇さん特別寄稿――=連載(4)=運動協力者が少ない現実=「日本文化伝承の証」か

2005年12月23日(金)

④保存運動に協力者が少ないのは日本文化伝承の証
 今日まで、いろいろな日系人の個人や団体・組織に保存協力を呼びかけて来た。そんな時「地元の人はどうしているのか」「まず地元を動かさねば」などの返事が来る。日本政府の出先機関に協力を訴えると、やはり「地元の協力は無いのか」「サン・パウロ文化協会の会長でも頭を下げてくれば話は別だ」などとの返事であった。また「あの建物は地元社会に貢献したと言うものでない」との意見も耳にする。
 前述のような対応をみると、平均的日本人の価値判断はそういう基準なのかと改めて考え込んでしまう。日系人社会ではどれだけ多くの人が賛同するかによって、その重要性の判断を下すのだろうか。
 カザロン・ド・シャは多分に自己主張を伴った建物である。またそれ故に連邦政府の文化財に指定されたのである。ブラジルの日系人社会に「自己主張を嫌う」日本文化の持つ特質が色濃く伝承されているなら、自己主張を伴った建物の存在を受け入れ難いというのもうなずける。この様な見方をすれば「保存運動に協力者が少ないのは日本文化伝承の証」とも言える。
 ここに再度、前述の州政府文化局内CONDEPHAAT出版「Casarao do Cha」の序文を引用する。
 「日本人達が身につけてきた文化的要素を、ブラジルという新しい自然のなかにおいてどのような形でこれを再生しようとしたものか、また、どのような過程をへてその自然の中に定着していったのか。カザロン・ド・シャの価値を言及するに当たって、以上のように未だ研究され尽くしたとは言えない点について考察してみたい」
 ブラジル日系人社会のなかで、組織・団体の役員より「日本文化を普及したい」とか、「日本の精神を伝えたい」という言葉をいやというほど耳にする。しかし一例を挙げるなら「自己主張を嫌う文化」をどのように自己主張するのか正面から議論された話は、残念ながら一度も聞いたことが無い。前記序文に述べられている命題を解いていくには、まず日本文化とはどういう文化なのかを正確に把握することから始めなければならない。この作業なしに活動としての「日本文化の普及」「日本の精神の伝承」等はあり得ない。
 一九九八年国際交流基金の援助でこの建物の調査を行った上野邦一氏調査報告には次のように述べられている。「この建物の構造を観察するとき興味深い点は、水平梁にトラスを用い、小屋組みもトラスである。(トラスは当時日本では使われていない西欧に起源を持つ構造)。即ち、日本の伝統的な構造を基本とし、トラスを混用するという工夫が加わっている。これは大工・花岡一男が日本の伝統的な構造を熟知し且つ移民してから洋風建築の知識を得て出来たことである。この大工の考えはユニークであり、許されるならば、私は移民文化と呼びたい。ブラジルには様々な移民文化があろうが、カザロン・ド・シャは日本とブラジルに関る典型的な移民文化の建物である」
 出来るだけ多くの人にカザロン・ド・シャの現状を理解していただき、保存協力をお願いしたい。(おわり 二〇〇五年十二月一日)

■カザロン・ド・シャ保存運動――中谷哲昇さん特別寄稿――=連載(1)

■カザロン・ド・シャ保存運動――中谷哲昇さん特別寄稿――=連載(2)=大工「花岡一男」の自己主張=仕上げに少々欠点があっても

■カザロン・ド・シャ保存運動――中谷哲昇さん特別寄稿――=連載(3)=日本文化特有の自然観を加味=自己主張なし得た好例