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セラードの生態系を守れ―JICA協力、動物の移動経路確保へ―=連載(7)=援助無駄にしたくない=プロジェクト始まって=住民意識が高揚

5月28日(土)

 「ここの自然を愛しているし、JICAの支援が来年終っても、セラード生態コリドー保全計画を必ず、継続させてみせます」。マウロ・ソアレスさん(42、リオデジャネイロ出身)は、芯の強さを見せつけた。
 ソアレスさんは、アウト・パライーゾ市前環境局長。環境活動統合センター(CIAA)でコーディネーター役を務めるほか、NGOなどに関係し、プロジェクトに欠かせない人物の一人だ。
 軍人の子で、幼いころにブラジリアに移った。大学でコミュニケーションを学び、TVグローボ局に入社。長らく、コンピューター関係の仕事をこなしていた。
 ある日、退職を決意。旅に出た。「暴力・麻薬・セックスの氾濫する世界が、嫌になったんだ」。TV局時代に築いた人脈を頼りに、マラニョン、ピアウイ、セアラーなど国内各地を歩いた。旅行を続けるうちに環境問題に目覚め、関連図書を読み漁った。
 近親者たちは気がふれたと、思い込んだらしい。おばがアウト・パライーゾに土地を購入。住居の建築に手を貸してくれと、頼んできたので腰を落ち着けた。 官庁や民間団体などが前歴を知り、ひっぱりだこになったという。先の選挙で市政が交代し、CIAAに新たな活動の場を求めた。「家庭から出る生ごみは庭に埋めているし、移動手段は自転車です」。活動と私生活に矛盾はつくらない。
 世界経済フォーラムに対抗して、ポルトアレグレで毎年開かれている世界社会フォーラムの立役者でもある。NGO団体「GAMA」に所属。ラジオを通じて、住民の啓発運動などに励む。
 プロジェクトが始まって、住民意識が高揚。トップ・ダウン方式から市民参加型に変わりつつある。「実は、行政のトップにとって、JICAは煙たい存在だった。役人たちは、監視されるわけだからネ。でも支援活動が成果を上げるようになって、みんな納得した」とソアレスさん。
 「これまで受けた援助を絶対に、無駄にしたくない」。官民の共通した思いだ。専門家たちにとって、仕事冥利に尽きるセリフだろう。
 JICAがブラジルで、環境分野に力を入れるようになったのは、やはりリオ・サミット(九二年)あたりから。グァナバラ湾(リオ)の水質汚濁を軽減させたり、トメアスー(ベレーン)にアグロ・フォレストリーを導入するなど成果をあげてきた。
 「ブラジルは途上国のリーダーになって、知識を生かし他国の開発に寄与してほしい。例えば、アフリカのポルトガル語圏で活躍できるのではないだろうか」(広報担当)。
 二〇〇三年に独立行政法人化した、JICA。事業に「効率性」や「透明性」が求められることになったのは、周知の通りだ。
 ブラジルに対する技術協力は〇三年に、二十四億三千五百万円。九八年(五十三億八千九百万円)の約四五%まで落ち込んだ。とは言え、「貧困」などと並んで、「環境」はJICAで最重要課題と位置づけられている。
 ブラジルはアマゾン、パンタナール、セラードなどを所有。環境保全に対して、担う役割は大きいはずだ。今後、デンデ椰子からディーゼル燃料をつくったり、ゴミを燃焼したときに出るメタン・ガスを発電に利用するといった事業が熱を帯びてくるだろう。
 リオ・サミットから十三年。京都議定書が今年二月に発効し、各国間で温室効果ガスの排出量取引が活発化してくるかもしれない。JICAが、人材やノウハウなどを活用。日伯関係促進に、一役買える場はいくらでもありそうだ。
(おわり、古杉征己記者)

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