2005年10月19日(水)
かつて私たちの研究所が「ドイツ系におけるドイツ語教育」の調査をした際、ドイツ系コレジオの責任者は次のように語っていた。
「私たちがドイツ語を含めたドイツ文化の普及に力を入れているのは何かというと、私たちとしてはドイツ系後継世代に対しては、何世になろうともドイツ語を習得し、ドイツ文化を継承して欲しいというエモーショナルな動機がある。同時にドイツ国としては、ブラジルに多大な投資をし、一千社にものぼるドイツ系企業が現在ブラジルで活動しているが、これらの多大な投資に対し、ブラジル人一般がひとりでも多くドイツ語を知り文化を知ってドイツに対する理解を示してくれることは、単に一企業にとって大きな利益になるばかりでなく、国益にも大きくつながることになる。ドイツ系の企業がわれわれのこうした理念に理解を示し、われわれの学校教育に対し、多額の資金的協力をしてくれているのも、そうした共通の利益に基くものである」
こうしたヴィジョンはわが日系社会の指導者たちあるいは日語教育関係者、また日本からの進出企業の経営者の中に多少なりともあるであろうか。
数年前発表された日本商工会議所の日本語教育に対する企業としての対応の実情調査の結果を見ても、二十数年前われわれが協力して行った同様調査と同じく、社内では日本語能力よりも英語能力重視で日本語に関しては無関心というものが大多数を示している。
さらに例をあげれば、ここブラジルに自国移民社会があるわけでもないのに、言語も含めた自国文化の普及に日本人には考えも及ばない多額の資金を投下しているイギリスやフランスをどう見れば良いのか。
イギリスはBritish Counsil により、Cultura Ingresa をサンパウロ市内だけでも10数校も開設し、英語と同時にイギリス文化の普及につとめているばかりでなく、数年前、ピニェイロス区にその本部とも言うべき大きな文化普及センター(イギリス総領事館も同居)を新たに開設し、一層自国文化普及に力を注いでいる。同様にフランスもまたAlianca Francesa 校を市内だけでも数校持ち、多大な予算を計上してフランス語・フランス文化普及に力を入れている。
これに次いで文化普及に努力している国はドイツであるが、ドイツはゲーテ・インスチチュート・ドイツ文化センター(半官半民)をもってドイツ語と同時にドイツ文化普及を目指しているばかりでなく、ドイツ系エスニック・コレジオ、ドイツ商工会議所・ドイツ総領事館ともども、協議会をつくりあげ、ブラジル社会に、いかに有効にドイツ語・ドイツ文化を普及させるかを協議検討し、その結果を全国で実施している。
彼らはなぜこれほど自国文化普及に力を入れているのか、考えてみるとそうした対外文化普及のための投資(イギリス・フランスは日本[国際交流基金=Fundacao Japao]予算の数十倍、ドイツは10倍)は、どうも旧帝国主義時代に海外植民地を多く持った国ほど現在でもその予算額は大きいといえそうである。
それはとりもなおさず、植民地経営体験から、海外における自国文化普及が自国の国益と直接つながっていることを経験的に知っているからにほかならないだろう。それが植民地を喪失した現在でも生かされているということである。事実ドイツ系の関係者は「海外における文化投資は直接目にはあきらかには見えないが、長い目で見れば必ず国益となって戻ってくるものである。」と語っている。 (宮尾進、つづく)
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