2005年9月22日(木)
八月、マリリア日本語学校の空き教室の床は、新聞紙で散らかり放題だった。なぜなら、提出期限が迫る書道コンクールの作品を創っているまっ最中だったからだ。
この書道コンクールは、国際高校生選抜書展といって、日本では「書の甲子園」と呼ばれている大変有名な書展である。その名の通り世界中の高校生たちが書道の作品を日本へ送り、
夏の高校野球さながらに、熱い戦いを繰り広げる。
それに、マリリア日本語学校の高校生を参加させることが急遽決まり、猛特訓を始めたというわけである。
とにかく今回の書道は、普段学校で教えるのとは全然違う。まず紙の大きさからして、人一人分ぐらいある。すると、普通の筆では小さすぎるので、何本も合わせて書いたり、壁を塗る刷毛を使ったりもする。
文字も、漢字だろうがポルトガル語だろうがかまわない。紙におさまれば、何を書いてもいい。しかし自由というのが、実は一番難しいのだ。
参加する生徒は三人で、みんな少し書道の経験がある子達だ。でも今回は、そのいつもの書道のイメージを取り払わなければいけない。
まず最初に、「今からみんなこういうのを書くんだよ!」と、過去の入賞作品の写真を見せてみた。そのあまりの大きさと迫力にみんな唖然。これで書道の静かなイメージをふっとばすことに成功した。
次にどんな言葉を書きたいか考えてもらった。自分で考えた言葉のほうが、書くときにイメージしやすく、気持ちが入ると思ったからである。
一人は大好きな和太鼓クラブの名前、一人は自分の名前、一人は好きな歌の英語の歌詞からとった。
そうして靴を脱いで、床に這いつくばっての練習が始まった。最初は何を書いているのかさえも分からなかっただろうが、後半は自分の字の良し悪しを判断できるようになり、自信なげな弱々しかった線が、日を追うごとにつれて、どんどん逞しくなっていった。
そしてこのエッセイを書いている今日、全員の作品が仕上がった。最後には、みんな素晴らしい字を書き上げた。
正直ここまで書けるようになると思っていなかったので驚いた。まるで一年分の練習が、この一週間に凝縮されたような大変さだったけれど、どんどん上達していく生徒達を見て、私はすごく楽しい時間を過ごさせてもらった。
生徒には「楽しかった?」とは聞かなかった。スポーツした後のような、すっきり爽やかな笑顔から、十分に伝わってきたからだ。
◎ ◎
【職種】書道教師
【出身地】奈良県奈良市
【年齢】27歳
- ◇JICA青年ボランティア リレーエッセイ◇
JICA連載(11)=原 規子=西部アマゾン日伯協会=元気な西部アマゾン日伯協会- JICA連載(10)=中江由美=ポルトヴェーリョ日系クラブ=「熱帯の中で暮らし始めて」
- JICA連載(9)=中村茂生=バストス日系文化体育協会=「日本」が仲立ちの出会い
- JICA連載(8)=加藤紘子=クイアバ・バルゼアグランデ日伯文化協会=日本が学ぶべきこと
- JICA連載(7)=森川奈美=マリリア日系文化体育協会=「気づかなかった素晴らしさ」
- JICA連載(6)=清水祐子=パラナ老人福祉和順会=私の家族―39人の宝もの
- JICA連載(5)=東 万梨花=ブラジル=トメアス総合農業共同組合=アマゾンの田舎
- JICA連載(4)=相澤紀子=ブラジル=日本語センター=語り継がれる移民史を
- JICA連載(3)=中村茂生=バストス日系文化体育協=よさこい節の聞こえる町で
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- JICA連載(1)=関根 亮=リオ州日伯文化体育連盟=「日本が失ってしまった何か」