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ロライマに賭けた男たち=北緯3度、灼熱の大地で=連載(6)=大豆種生産で州内一=田中パウロさん

2005年6月8日(水)

 雨が降ることはほぼないという乾季のロライマだが、カーニヴァル前の今年一月、雨に見舞われた。同地に四十年住む元タイアーノ移民の老婦人も「初めての経験」と首をかしげるほど珍しい現象だ。
 「うーん、気になるね。雨が降ると土が固くなっちゃうんですよ」。〇二年、ミナス・ジェライス州サンゴタルドから、ロライマに移住した田中パウロさん。しとしとと降り出した空を見上げながら、恨めしそうに呟いた。
 ボア・ヴィスタから、車で三十分。見渡す限りの大豆畑。ピヴォ・セントラルがはるかかなたまで続く。
 植付けでも、ミナスでは一週間かかる発芽が、ここでは三日晴天が続けば問題なく芽をふく。
 温度や雨量が安定していることもあり、二期作、三期作が可能だ。パウロさんは、現在、三カ月毎に植付けを行っており、「土地を順繰りに変えていけば、大体、一年中収穫ができるようになる」パターンに持っていきたいとのこと。
 パウロさんは大豆そのものだけではなく、大豆種の生産にも力を入れている。
 以前は、ミナスやゴイアスから、購入しており、到着するまでに三週間くらいかかっていたことからも、ゴミ取りから、大きさや形の選別まで行う種選別機の購入に踏み切った。一番重い大豆を種として使用するが、選別にかけた約半分が種として使用できる。
 州内には、約三十人の大豆生産者がいるが、種の生産ではパウロさんの農場が群を抜く。
 「今年は八〇〇トン作るつもり」と意気込む。すでに二四〇トンは冷凍庫で貯蔵、出荷を待つ状態だ。
 所有する三千ヘクタールの土地の購入価格は、三二万レアル(〇二年購入時)だったが、この三年で地価が高騰、現在では四百万レアルの価値があるという。
 「平原だから、伐採しなくてもいいし、環境破壊もない(パウロさん)」が、土地が安いとはいえ、農業機械などは全てサンパウロなどブラジル南部から取り寄せるため、輸送経費は莫大だ。
 パウロさんはピヴォ・セントラルを五台所有しているが、ミナス州から一台運搬するのに、一万三千レアルかかるほか、二台のコンバインや十台のトラトールも全てサンパウロから取り寄せている。
 そのうえ、ロライマ州では、所有地の六五%しか植付けができないため、現在、借地も含めた千二百ヘクタールしか使用していない。
 サンゴタルドでは三百五十ヘクタールの土地で、農業を営んでいたパウロさん「色々大変だけど、ここは将来も夢もあるよ」と表情を緩ませる。
 二ヵ月に一度はロライマを訪れるサンゴタルドに住む父親の田中義文さんは、六〇年来伯の元コチア青年。七四年にセラード開発で同地に入っている。
 「できあがったところだったら、楽だけどね。何もないところで苦労すれば面白い」。自分が得た開拓の喜びを息子にも感じて欲しいと願う。
 「子供の頃からトラトールに乗せてもらってね、楽しかった。農業やろうって決めてた」とパウロさん。大学も迷わず、農大へ進んだ。
 息子も農業の道に進んでくれたら―、と五歳の愛息よしあき君に運転を教えながら、畑を見回るのが楽しみだ。
 ブラジル国内では、地の利が悪いイメージのあるロライマだが、ベネズエラやガイアナに隣接しており、国外輸出の将来性は高い。
 現在、州全体で年間二十六万トンの大豆を産出、〇四年はヴェネズエラに十四万トンをすでに送っている。直線距離でいえば、マナウスよりも近いカリブ海までのルートが出来れば輸出量が増えることも考えられるという。
 「三年おってまだカリブ海行く暇ないけどね」と日焼け顔のパウロさん。灼熱の大地、ロライマで農業に賭ける日系移住者たちの挑戦は終わらない。
      (終わり)
    (堀江剛史記者)

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