2006年7月14日(金)
法務官僚のルイス・パウロ・バレット氏は〇五年九月一日のセレモニアで、誇らしげにこう語った。
「新法(草案)は、尊厳を持って、外国人を扱う内容になっている。治安確保や安全保障といった、観点はもう存在していない」。
二〇〇四年から三カ年計画で見直しが進められている、政府の移民政策。外国人法改正は大きな柱の一つだ。
新法の草案が完成。サイト上で内容を公開し、一般市民の諮問にかけられていることを、この日、法務省が発表した。
草案作成チームの責任者、バレット氏は法律の精神が斬新的に変化し、規制が緩和される見通しであると力を込めて語った。
◆
「世界の潮流と反対に、外国人法を柔軟化する政府」──。
フォーリャ紙は〇四年十月、そんな見出しをつけて、草案の一部を紹介。外国人数やその人口比が年々減少している現状を報じていた。それから一年後に、ようやく陽の目をみた形だ。
国民・外国人を問わず、ブラジル憲法(八八年)は基本的人権を保護すると謳っているし、社会保障や医療給付を受ける権利もある。
経済のグローバル化の結果、ヒトやサービスの自由な移動が求められる時代。現代に合った内容に改めたいとの意図も、改正案の背景にあるようだ。メルコスール域内やポルトガル語圏の外国人の入国が容易になるという。
◆
移民審議会のニウトン・フレイタス会長は「官僚主義的な弊害を廃止。誰にでも分かりやすい内容になる見込み。手数料も下がる方向で、手続きが簡素化するのでは」と話す。
大きく変わるのはものの一つが「visto de turismo」と「visto para negocio」との結合。観光ビザで入国し、仕事上の調査などができるようになる。
(1)銀行口座開設(2)不動産取得条件は緩和の方向。また内縁関係にある、外国人の夫や妻に永住権を与える。「移民の人権」という視座から、法律を捉えた形だ。
今井真治さんは「法文が大雑把に書かれている。実際に観光ビザで入って、交渉先と取引を行うこともある」と解説。
その上で「ケース・バイ・ケースで解決を見出してきた、決議(resolucao normativo)が七十号に達している。それを法律に組み込んでいくのは称賛すべき」と評価している。
◆
ただ外国人に広く門戸を開けるわけでなく、既に国内に居住中の外国人の保護に軸足を置いているという基本路線は変わらない。
移民支援団体SPMはもう一歩進歩させた法案を求めている。
草案に対して、ほかの移民関連五団体と二十七項目からなる提案を作成。一般提案・緊急要請事項をつけて、政府に渡した。
(1)学生ビザの期間を一年(更新は別)に制限しない(2)災害や健康被害のときの「人道ビザ」創設(3)労働ビザ承認に当たって、移民審議会が定めている「特別条項」の廃止──などを要求。
九八年の特赦は広報不足だったとして緊急に、広範囲にわたって、再度、不法移民の合法化を実施するように提言している。
市民から意見を聞きながら、法務省は最終改正案を作成中だ。SPMのロベルヴァル・フレイレさんは「どんな内容が国会にかけられるのか、私たちにも分からない」と気を揉む。
今年はワールド・カップがドイツであったばかり。今後は、大統領選に熱が帯びていくはず。移民支援団体の不安は募るばかりだ。
イザウラ・ミランダ法務省外国人局局長は渋い表情ながらも、こう断じた。「緊急案件として、新外国人法を年内に国会を通過させたい」。
(つづく、古杉征己記者)
■移民政策=時代に対応、修正へ=連載(1)=密入国者あとを絶たず=国境警備は混沌
■移民政策=時代に対応、修正へ=連載(2)=国内労働者の保護優先=たとえ政権変わっても
■移民政策=時代に対応、修正へ=連載(3)=戦後、外国人導入に消極的=受け入れ後弊害多発