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JICA青年ボランティア リレーエッセイ=最前線から=連載(23)=今井さや香=コロニアピニャール文化体育協会=「ブラジルの空の下で」

2005年12月22日(木)

 私の派遣されたコロニアピニャールは、サンパウロ市より南西百七十キロの地点にあり、約六十世帯、四百人の人々が住む日系植民地である。村では主に、葡萄、びわ、柿、なしなどが生産されている。
 私が初めて、ここの土を踏んだ五ヵ月前、ガタガタとゆれる車の中で、わたしはこれから始まる新しい生活にわくわくしていた。
 サンパウロから、車に揺られ、にぎやかな町並みを抜けると、目の前には、ただただまっすぐにのびる一本の道、左右には濃い緑色をした林が続いている。道はコンクリートから赤土へと変わっていく。
 この景色をみて、期待していた以上の環境だとうれしくなった。つい最近のように感じるが、それももう四ヵ月もまえのことだ。
 村から隣町のサンミゲル・アルカンジョまで約二十五キロ、家から最寄りのバス停まで約五キロ、村にはショッピングセンターはもちろん、スーパーもない。
 一見、とても不便そうに思われるこの村だが、わたしにはこの環境が心地よい。町のような便利さはないが、のどかで、自然の美しさを感じることができるからだ。
 なんとも表現できないほどきれいな空。晴れた昼の空も、夕方の真っ赤な空も、満点の星空も。そして、青々と生い茂る木々にも魅了されている。少し高台まで行くと、目の前に広がるこの大地の雄大さに思わず息をのんでしまう。
 朝晩には、白鷺の群れが空を舞い、特に夕方にはその白い体をピンク色に染める。最近では家の前を蛍が飛ぶようになり、また新たな美しさを発見した。
 日本にいた頃は、「生きる」ということがなんだかすごく難しい哲学のように感じられた。書店には「生きるとは何か」のような類の本が並び、まるで永遠に解くことのできない謎々のようである。
 が、ブラジルの空の下で、この雄大な景色を眺めていると、「生きる」ということがとてもシンプルなことのように思えてくる。ここにいる虫や、動物、花と同じように、今を生き、土に返っていく。
 そういうことなんだとブラジルで出会った人々の笑顔が教えてくれているような気がしている。だからこそ、今の素直な気持ちを大切に、今を大切にしようと思わされる。
 私は今、コロニアピニャールというこの村と密着した生活を送っている。そう、まさに地域と密着した教育活動をすることが今の私の目標である。あと一年と七ヵ月。
 今できることをこなしていくことが、未来につながると信じ、がんばっている。小さなことからこつこつと。そんなことをよく母に言われた。これから、どれだけの活動ができるのか、わくわくしている。初めてピニャールに来たときとはちょっとちがうわくわくだ。
   ◎   ◎    
【職種】日本語教師
【出身地】岐阜県瑞穂市
【年齢】26歳

 ◇JICA青年ボランティア リレーエッセイ◇
■連載(22)=池田玲香=マリアルバ文化体育協会=気づいた「日本人らしさ」
連載(21)=山崎由加里=特別養護老人施設あけぼのホーム=〃家族とのつながり〃
連載(20)=中村茂生=バストス日系文化体育協会=百周年に移民展を
JICA連載(19)=加藤みえ=ボツカツ日本文化協会=ボツカツから笑顔の風
JICA連載(18)=中江由美=ポルトベーリョ日系クラブ=「時の流れもお国柄」
JICA連載(17)=加藤紘子=クイアバ・バルゼアグランデ日伯文化協会=パンタナールに漂う空間に出会って
JICA連載(16)=宇都宮祐子=Escola Professora Josephina de Mello(マナウス)=料理アマゾナス風
JICA連載(15)=松岡美幸=パラナ州パルマス日伯文化体育協会=「人の温かみを感じる町」
JICA連載(14)=相澤紀子=ブラジル日本語センター=「何を残して何を持ち帰るのか」
JICA連載(13)=東 万梨花=トメアス総合農業協同組合=ブラジル人から学んだ逞しくなる秘訣
JICA連載(12)=森川奈美=マリリア日系文化体育協会=「笑顔の高校生達」
JICA連載(11)=原 規子=西部アマゾン日伯協会=元気な西部アマゾン日伯協会
JICA連載(10)=中江由美=ポルトヴェーリョ日系クラブ=「熱帯の中で暮らし始めて」
JICA連載(9)=中村茂生=バストス日系文化体育協会=「日本」が仲立ちの出会い
JICA連載(8)=加藤紘子=クイアバ・バルゼアグランデ日伯文化協会=日本が学ぶべきこと
JICA連載(7)=森川奈美=マリリア日系文化体育協会=「気づかなかった素晴らしさ」
JICA連載(6)=清水祐子=パラナ老人福祉和順会=私の家族―39人の宝もの
JICA連載(5)=東 万梨花=ブラジル=トメアス総合農業共同組合=アマゾンの田舎
JICA連載(4)=相澤紀子=ブラジル=日本語センター=語り継がれる移民史を
JICA連載(3)=中村茂生=バストス日系文化体育協=よさこい節の聞こえる町で
JICA連載(2)=原規子=西部アマゾン日伯協会=「きっかけに出会えた」
JICA連載(1)=関根 亮=リオ州日伯文化体育連盟=「日本が失ってしまった何か」