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JICA青年ボランティア リレーエッセイ=最前線から =連載(25)=森川奈美=マリリア日系文化体育協会=書道に日本語は必要?

2006年1月12日(木)

 ここ二カ月ほど書道出張で、近くはパラナ州、遠くはロンドニア州まで行き、日本語学校で授業したり、日本祭りでイベントを行ったりした。出張では人数が集まれば日系人でも非日系人でもかまわない。
 サンパウロ州パカエンブという町を訪れた時のことである。日本語学校の生徒だけでは人数が少ないからと、地元の方がブラジル小学校にも見学に来るよう声をかけた。
 非日系人の団体に教えるのはこの時が初めてで不安だったが、いつも私がやっている初心者向けの授業をやらせてみた。
 まずすずりで墨をすり、次に筆に慣れさせるために絵を描かせ、そこから基本を練習し、最後は漢字を書く。説明は下手にポルトガル語を使うよりも、実際書いて見せたほうがよく伝わる。漢字はなるべく象形文字(絵からできた漢字)を選ぶ。
 日本語を全く知らない彼らにとっては、漢字なんて一種の記号で、それを絵から説明することで、非常に興味をもってくれるのだ。この授業方法は非常に好評で、特に墨すりや絵という遊びを交えた動作をいれることで、子供たちに「書道はおもしろいもの」という意識を植えつけることができる。
 私はいつもこんな感じで、なにかおもしろい日本文化と、書道を合体させている。特にブラジルの子供たちは字が上手くなるのが第一の目的ではないから、楽しんでなんぼだと思うのだ。
 結局二日間で百人ほどの子供達が来て、てんてこまいで大賑わいの書道授業だったが、みんな楽しんでくれたようだ。その中でも印象に残った子たちがいる。彼らは見学の団体と別に個人で来て、非常に書道に興味をもったらしく、二日間ともやってきた。二回目はその子たちだけを集めて少人数授業を開いたのだが、まだ十歳ほどの子達なのに驚くほど熱心に取り組んだ。
 負けず嫌いで自分の思い通りの線が書けるまで何度も練習した子もいたし、飲み込みが早くセンスのいい子もいたし、最後には筆を買いたいという子もいた。 感想を聞くと、「はじめは難しくそうで自分にできるかなと思ったけど、やってみたら意外とできて楽しかった」という答えが返ってきた。私自身も、またこの子達に教えたいと思った。
 「書道は難しそう」「日本語を知らないとできないでしょ?」とよく耳にするが、書道を始めるのに人種や日本語の知識は関係ない。単純に、筆をもって書くことに楽しみを感じるかどうかということである。あの授業以来、私はそう確信するようになった。もっともっと、壁を取り払いたい。
    ◎   ◎
【職種】書道教師
【出身地】奈良県奈良市
【年齢】27歳

 ◇JICA青年ボランティア リレーエッセイ◇
連載(24)=原田陽子=ピラール・ド・スール文化体育協会=日本の反対側の日本
連載(23)=今井さや香=コロニアピニャール文化体育協会=「ブラジルの空の下で」
連載(22)=池田玲香=マリアルバ文化体育協会=気づいた「日本人らしさ」
連載(21)=山崎由加里=特別養護老人施設あけぼのホーム=〃家族とのつながり〃
連載(20)=中村茂生=バストス日系文化体育協会=百周年に移民展を
JICA連載(19)=加藤みえ=ボツカツ日本文化協会=ボツカツから笑顔の風
JICA連載(18)=中江由美=ポルトベーリョ日系クラブ=「時の流れもお国柄」
JICA連載(17)=加藤紘子=クイアバ・バルゼアグランデ日伯文化協会=パンタナールに漂う空間に出会って
JICA連載(16)=宇都宮祐子=Escola Professora Josephina de Mello(マナウス)=料理アマゾナス風
JICA連載(15)=松岡美幸=パラナ州パルマス日伯文化体育協会=「人の温かみを感じる町」
JICA連載(14)=相澤紀子=ブラジル日本語センター=「何を残して何を持ち帰るのか」
JICA連載(13)=東 万梨花=トメアス総合農業協同組合=ブラジル人から学んだ逞しくなる秘訣
JICA連載(12)=森川奈美=マリリア日系文化体育協会=「笑顔の高校生達」
JICA連載(11)=原 規子=西部アマゾン日伯協会=元気な西部アマゾン日伯協会
JICA連載(10)=中江由美=ポルトヴェーリョ日系クラブ=「熱帯の中で暮らし始めて」
JICA連載(9)=中村茂生=バストス日系文化体育協会=「日本」が仲立ちの出会い
JICA連載(8)=加藤紘子=クイアバ・バルゼアグランデ日伯文化協会=日本が学ぶべきこと
JICA連載(7)=森川奈美=マリリア日系文化体育協会=「気づかなかった素晴らしさ」
JICA連載(6)=清水祐子=パラナ老人福祉和順会=私の家族―39人の宝もの
JICA連載(5)=東 万梨花=ブラジル=トメアス総合農業共同組合=アマゾンの田舎
JICA連載(4)=相澤紀子=ブラジル=日本語センター=語り継がれる移民史を
JICA連載(3)=中村茂生=バストス日系文化体育協=よさこい節の聞こえる町で
JICA連載(2)=原規子=西部アマゾン日伯協会=「きっかけに出会えた」
JICA連載(1)=関根 亮=リオ州日伯文化体育連盟=「日本が失ってしまった何か」