2006年7月18日付け
「我々には、我々の見解があるんだ」。
法務省外国人局のイザウラ・ミランダ局長は、眉をひそめた。労働省の担当官を取材した直後のことだ。 移民政策の決定プロセスで、労働省より法務省が低くみられるのが、どうやら気に食わないらしい。
今井真治さんは「議会に近い省庁のほうが、古くできたんですよ」という。議会寄りのほうが、国にとって重要な省庁だとの見方が可能だ。
法務省は外務省と並んで、議会のすぐそば。それだけに、プライドが高いのだろう。
ルーラ政権は〇四年から三カ年計画で、移民政策を見直している。その中で争点の一つになっているのが、移民審議会の組織改編だ。
どこの省庁が、イニシアチブをとるか? 労働省と法務省が主導権争いを繰り広げている。
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同審議会は、一九八〇年八月十九日の法令六千八百十五号(外国人法)に、基づいて設立。翌八一年の施行法に、組織の役割などが記されている。
目的は(1)移民政策の作成(2)移民の活動のコーディネート・指導(3)永住・一時滞在が認められる、質の高い労働者の必要性の調査──など九項目。
外国人法で規定されていない問題について、決議(Resolucao normativo)の形で対処している。国会を通過して成立したものでない。だが、法的な拘束力を持つ規範だ。
今井さんは「法律には細かいことが書かれていない。その適用のあり方を、決議で決めている。それをつくる権限が、移民審議会に与えられている」と解説する。
同審議会は労働省に付属。同省を始め法務省、外務省など外国人に関係する、省庁の代表者らで構成されている。
「移民」という言葉は、辞書では、他国へ移住すること。その主な理由は、母国と移住先国との経済格差。移住者の関心事は収入だ。労働省が、移民審議会をしきる所以である。
フレイタス同審議会会長は「移民労働者は貧しさから脱して、豊かさを求めて移動するもの。外国に出て働く」と強調。「文化」「スポーツ」は、全体からすれば、ごくわずかな要因だという。
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犯罪組織による搾取、人身取引、奴隷労働……。移民の権利が蹂躙されてきた歴史的な事実がある。人権意識の高まりを受けて、九〇年代に移民をとりまく状況が変わった。
一九九〇年十二月の国連総会で、「移民労働者および家族の基本的人権および自由を保証する協定」が採択された。
身分証明書の有無に関わらず、移民労働者の基本的な人権を再認識。移民取引を排除し、彼らの自由な移動と権利の行使を保証するのが目的だった。
同協定の批准国は極端に少なく、どちらかと言えば先進諸国では移民の福祉に消極的。ブラジルもまだ批准していない。だが、さまざまな民族を受け入れて形成されたブラジルは、移民問題を見過ごすことはできない。
こうした国際的な流れの中で、権利擁護の視点に立てば、移民審議会の運営を宰領するのにふさわしい省庁は法務省になる。
「外国人法改正で、草案づくりのコーディネーターを務めているのは私たちなのよ」。イザウラ局長はそう、ぶっきらぼうに言った。
フレイタス会長も「移民労働者は居住国で働くわけだから、労働省が音頭をとるほうが適切だ」と一歩もひかない。
経済活動か人権か? 移民を分析する視点をめぐる論争。省庁間の〃縄張り争い〃も絡んで、しばらくは決着がつきそうにない。
(つづく、古杉征己記者)
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