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JICA青年ボランティア リレーエッセイ=最前線から =連載(29)=相澤紀子=ブラジル日本語センター=「サンタクルス病院にて」

2006年2月16日(木)

 ブラジルに来てから早くも一年が過ぎた。その間なんとか健康に過ごしていたけれど、それでも二度ほどサンタクルス病院のお世話になった。一度目は風邪で、二度目は胃痛で。
 去年の七月にひいた風邪は、日本から持ってきていた薬を飲んでも熱が下がらず、ちょっとあせった。よく聞いていたことだけれど、ブラジルの風邪に日本の薬は効かないらしい。ふらふらしたままタクシーで病院に向かい、不安な気持ちで門をくぐった。すると日系の職員の方に迎えられ、てきぱきと日本語で話がすすみ、すぐに診察を受けることができた。
 先生からはあっさりと扁桃腺炎の診断が下された。「注射打てば痛みも取れるし、治りが早くなるよ」と説明され、注射は苦手なんですがという言葉を飲み込み、注射室へ向かった。そうしてコトも無事に終わり帰るころ、その日ずっと付き添ってくれた日系職員の方から、私が持ち歩いていた医療や体の部位に関する日葡両語のプリントを一部コピーさせてもらえませんかと頼まれた。「説明するときにあんまり詳しいものだと、かえってわかりづらくなるんですよ」とイラストに体の名称がはいったものを彼女は選んだ。
 そのプリントは、横浜でポルトガル語の研修を受けているときに担任だった日系のマリア先生が配ってくれたもので、この日はじめて役に立った。あの時はよくわかっていなかったが、マリア先生はブラジルで生徒が怪我や病気になった時のことを心配して、何種類ものプリントを用意してくれていたのだった。
 そして今月。一月の暴飲暴食がたたったのか、急にやってきた夏の暑さに体がついていなかったのか、胃の調子が悪くなった。一、二週間、様子を見ていたが、症状がだんだんひどくなるので、ようやくサンタクルス病院へと向かった。まだ気持ちに余裕があったので、あらかじめ症状を説明できるように、辞書でazia(胸焼け)とnausea(むかつき)という言葉を調べておいた。ところが今回の担当の先生は流暢に日本語を話す。診察の終わりに、「日本のどちらで研修を受けられたんですか」と尋ねたら、「一世なんですよ」
という答えが返ってきた。
 私のポルトガル語を聞いたことのない人が、私を日本語の達者な二世だと勘違いしたこともあるそうなので、こればかりは話しているのを聞いただけではわからない。ブラジルにはそれだけ日本語の上手な二世、三世が多いということなので、これは当地の日本語教育の成果が生んだ、うれしい誤解の一つといえるのかもしれない。
 さて、調べた単語の出番がなかったかといえばそうでもなく、血圧を測ってくれたブラジル人の看護師さんとの世間話になんとか使うことができた。胃の症状は早く消えてほしいが、覚えた単語は今しばらく記憶に残っていてほしいものである。
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【職種】企画・編集・広報
【出身地】神奈川県横浜市
【年齢】31歳

 ◇JICA青年ボランティア リレーエッセイ◇
連載(28)=辻 伸二=セルジッペ州日伯文化協会=歌と歩んだアラカジュの2年間
連載(27)=原規子=西部アマゾン日伯協会=「アマゾンに暮らす」
連載(26)=東万梨花=トメアス総合農業協同組合=パラエンセのスピリット
連載(25)=森川奈美=マリリア日系文化体育協会=書道に日本語は必要?
連載(24)=原田陽子=ピラール・ド・スール文化体育協会=日本の反対側の日本
連載(23)=今井さや香=コロニアピニャール文化体育協会=「ブラジルの空の下で」
連載(22)=池田玲香=マリアルバ文化体育協会=気づいた「日本人らしさ」
連載(21)=山崎由加里=特別養護老人施設あけぼのホーム=〃家族とのつながり〃
連載(20)=中村茂生=バストス日系文化体育協会=百周年に移民展を
JICA連載(19)=加藤みえ=ボツカツ日本文化協会=ボツカツから笑顔の風
JICA連載(18)=中江由美=ポルトベーリョ日系クラブ=「時の流れもお国柄」
JICA連載(17)=加藤紘子=クイアバ・バルゼアグランデ日伯文化協会=パンタナールに漂う空間に出会って
JICA連載(16)=宇都宮祐子=Escola Professora Josephina de Mello(マナウス)=料理アマゾナス風
JICA連載(15)=松岡美幸=パラナ州パルマス日伯文化体育協会=「人の温かみを感じる町」
JICA連載(14)=相澤紀子=ブラジル日本語センター=「何を残して何を持ち帰るのか」
JICA連載(13)=東 万梨花=トメアス総合農業協同組合=ブラジル人から学んだ逞しくなる秘訣
JICA連載(12)=森川奈美=マリリア日系文化体育協会=「笑顔の高校生達」
JICA連載(11)=原 規子=西部アマゾン日伯協会=元気な西部アマゾン日伯協会
JICA連載(10)=中江由美=ポルトヴェーリョ日系クラブ=「熱帯の中で暮らし始めて」
JICA連載(9)=中村茂生=バストス日系文化体育協会=「日本」が仲立ちの出会い
JICA連載(8)=加藤紘子=クイアバ・バルゼアグランデ日伯文化協会=日本が学ぶべきこと
JICA連載(7)=森川奈美=マリリア日系文化体育協会=「気づかなかった素晴らしさ」
JICA連載(6)=清水祐子=パラナ老人福祉和順会=私の家族―39人の宝もの
JICA連載(5)=東 万梨花=ブラジル=トメアス総合農業共同組合=アマゾンの田舎
JICA連載(4)=相澤紀子=ブラジル=日本語センター=語り継がれる移民史を
JICA連載(3)=中村茂生=バストス日系文化体育協=よさこい節の聞こえる町で
JICA連載(2)=原規子=西部アマゾン日伯協会=「きっかけに出会えた」
JICA連載(1)=関根 亮=リオ州日伯文化体育連盟=「日本が失ってしまった何か」