2006年4月6日(木)
「レシーフェへようこそ。 レシーフェ日本語学校 2005年7月7日」
白いカードが、バラの花束に埋もれていた。ようやくたどり着いたレシーフェの空港で、六人もの出迎えに驚いた。そして、これまでの人生でもらったことがあったかしら?と思いながら、真紅のバラを受け取った。
それ以来、何か困ったことはないか、寂しくしてはいないかと、こちらの皆さんには、至れり尽くせり面倒を見て頂いている。これで働かなければ、バチが当たるというものである。日系人の少ないノルデスチだが、私の赴任直前に完成した新築の会館を得て、レシーフェ日本文化協会の活動には勢いがあるように感じられる。日本語学校の生徒数(約九十人、全体の八割が成人、全体の六割がブラジル人)も順調に増えている。
ノルデスチの文化は豊かである。カーニバルでは、サンバではなく、フレーボやマラカトゥが主役を張る。ペルナンブコ州旗を模した青と白の衣装で、カラフルな傘を片手に、飛んだり跳ねたり、フレーボは底抜けに明るく、力強い。軽快なフレーボを聞きながら、皿洗いをすると、なぜかすぐ終わってしまう。
マラカトゥには、もう少し、大人の匂いがする。優雅で、軽やかで、きっぱりと揃った太鼓の音に吸い込まれるようだ。二〇〇六年の元旦の夜、オリンダで、フレーボとマラカトゥの野外ステージを見た。これは、本当に良かった。私は、身の程をわきまえず、ダンススクールに入ってしまった。
日本語学校の仕事はやりがいがある。皆に親切にしてもらい、暮らしやすい。時間をぬって、踊ったり、ポルトガル語を勉強したり、満ち足りた毎日を過ごしている。しかし、今、日本は春だ。桜だ。風が暖かくなり、空気は草花の匂いがし、晴れやかな気分になる。春はいい。ここに来て初めて、日本のことを強く思った。帰りたいのではなく、ただ懐かしい。赴任九カ月である。こんな思いを、あるいは数十年こらえてきた方々が、ブラジルにはどれほどおられることか。
空港で頂いたバラの花束はもうないが、白いカードは冷蔵庫に磁石で留めてある。あの日の安心感と喜びと、初心を忘れないために。レシーフェの海も暑さも、とても好きだ。気合を入れ直し、あと一年と数カ月、人々の心に寄り添って、この土地に染まりたい。
◎ ◎
【職種】日本語教師
【出身地】埼玉県所沢市
【年齢】29歳
- ◇JICA青年ボランティア リレーエッセイ◇
- 連載(35)=池田玲香=マリアルバ文化体育協会=子供と正直に向き合って
- 連載(34)=加藤志保=ピエダーデ文化体育協会=ブラジル―日本間で
- 連載(33)=今井さや香=コロニア・ピニヤール文化体育協会=村人の優しさに感動
- 連載(32)=中江由美=ポルトベーリョ日系クラブ=ブラジルのお盆
- 連載(31)=宇都宮祐子=Escola Professora Josephina de Mello(マナウス)=ひらがなや漢字を描く?
- 連載(30)=中村茂生=バストス日系文化体育協会=コロニアで聞く戦争体験
- 連載(29)=相澤紀子=ブラジル日本語センター=「サンタクルス病院にて」
- 連載(28)=辻 伸二=セルジッペ州日伯文化協会=歌と歩んだアラカジュの2年間
- 連載(27)=原規子=西部アマゾン日伯協会=「アマゾンに暮らす」
- 連載(26)=東万梨花=トメアス総合農業協同組合=パラエンセのスピリット
- 連載(25)=森川奈美=マリリア日系文化体育協会=書道に日本語は必要?
- 連載(24)=原田陽子=ピラール・ド・スール文化体育協会=日本の反対側の日本
- 連載(23)=今井さや香=コロニアピニャール文化体育協会=「ブラジルの空の下で」
- 連載(22)=池田玲香=マリアルバ文化体育協会=気づいた「日本人らしさ」
- 連載(21)=山崎由加里=特別養護老人施設あけぼのホーム=〃家族とのつながり〃
- 連載(20)=中村茂生=バストス日系文化体育協会=百周年に移民展を
- JICA連載(19)=加藤みえ=ボツカツ日本文化協会=ボツカツから笑顔の風
- JICA連載(18)=中江由美=ポルトベーリョ日系クラブ=「時の流れもお国柄」
- JICA連載(17)=加藤紘子=クイアバ・バルゼアグランデ日伯文化協会=パンタナールに漂う空間に出会って
- JICA連載(16)=宇都宮祐子=Escola Professora Josephina de Mello(マナウス)=料理アマゾナス風
- JICA連載(15)=松岡美幸=パラナ州パルマス日伯文化体育協会=「人の温かみを感じる町」
- JICA連載(14)=相澤紀子=ブラジル日本語センター=「何を残して何を持ち帰るのか」
- JICA連載(13)=東 万梨花=トメアス総合農業協同組合=ブラジル人から学んだ逞しくなる秘訣
- JICA連載(12)=森川奈美=マリリア日系文化体育協会=「笑顔の高校生達」
- JICA連載(11)=原 規子=西部アマゾン日伯協会=元気な西部アマゾン日伯協会
- JICA連載(10)=中江由美=ポルトヴェーリョ日系クラブ=「熱帯の中で暮らし始めて」
- JICA連載(9)=中村茂生=バストス日系文化体育協会=「日本」が仲立ちの出会い
- JICA連載(8)=加藤紘子=クイアバ・バルゼアグランデ日伯文化協会=日本が学ぶべきこと
- JICA連載(7)=森川奈美=マリリア日系文化体育協会=「気づかなかった素晴らしさ」
- JICA連載(6)=清水祐子=パラナ老人福祉和順会=私の家族―39人の宝もの
- JICA連載(5)=東 万梨花=ブラジル=トメアス総合農業共同組合=アマゾンの田舎
- JICA連載(4)=相澤紀子=ブラジル=日本語センター=語り継がれる移民史を
- JICA連載(3)=中村茂生=バストス日系文化体育協=よさこい節の聞こえる町で
- JICA連載(2)=原規子=西部アマゾン日伯協会=「きっかけに出会えた」
- JICA連載(1)=関根 亮=リオ州日伯文化体育連盟=「日本が失ってしまった何か」
- 連載(35)=池田玲香=マリアルバ文化体育協会=子供と正直に向き合って