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JICA青年ボランティア リレーエッセイ=最前線から =連載(42)=加藤志保=ピエダーデ文化体育協会=「何とかなる」の精神

2006年5月18日(木)

 「だいじょうぶ、何とかなる!」これは今、私が一番好きな言葉。
 ブラジルに来てそろそろ一年が経とうとしている。周囲の協力を得て万事順風満帆に進んで来ることが出来た私であるが、着任十カ月目に入ったとき、学校経営の問題でちょっとした壁にぶち当たった。
それを文協の学務担当のUさんに伝えた所、その方は「まぁ、土壇場になれば、何とかなるもんですから」と穏やかにおっしゃった。
解決に向けての迅速な対応を期待していた私は、その言葉を聞いたとき正直、なにか物足りなさを感じ「この非常時になんと呑気なんだろう」と思った。
 そして、その事を同じ地区で活動するシニアボランティアの先生に相談した。すると「Uさんの「土壇場で何とかなる」という言葉を私は理解出来ます。Uさんは、そうやってこの過酷なブラジルで生きてこられたのです」という返事が返ってきた。
 私はその言葉にはっとした。そして自分を恥じた。考えてみれば、何も知らずにひょっこり日本からやって来た私のような一青年が「あれをやりましょう!」「これはどうでしょう?」と提案した時、上手く事が進んできたのは、私の力量でも何でも無く、同僚の先生や、生徒の父兄、そしてUさんを始めとする文協の理解ある方々が私に協力して「何とかしてくれていた」からなのだ。
 そして、その約一カ月後、今度は本物の壁にぶち当たった。今までイケイケでやってきた私にとって、この件は相当応え、落ち込んだ。そこには「前に進まなければ」という焦りもあったと思う。
 その件についての重苦しい会議の後、沈む私を前に、生徒のお父さん、お母さん達は私の手を握り、真っ直ぐ目を見て言ってくださった。「だいじょうぶよ、先生。何とかなるから!」「そうよ、絶対上手く行くから!」「先生は心配しなくても良いのよ、何とかなるんだから!」と。
私は皆の優しさ、暖かさ、大きさに包まれ、今までコチコチに固まっていた全身の力が抜けていくのを感じた。
「何とかなる!」この言葉がこんなにも力強く私の胸に響いたのは初めてだった。
 これは、まさしく異国の地で過酷な状況の中を生き抜いてき日本人だからこそ言える言葉。無責任に傍観するという意味ではなく、前向きに今ある状況と向き合う、という意味で発せられる言葉。一世のUさんに留まらず、生徒のお父さん、お母さん達、つまり二世、三世の世代にも、その精神は綿々と受け継がれているのだ。
 私もいつか、あんな風に力強く地に足をつけて「だいじょうぶ、何とかなる!」と自然に言えるような、そんな人間になりたい。      
   ◎   ◎
【職種】日本語教師
【出身地】三重県伊勢市
【年齢】33歳

 ◇JICA青年ボランティア リレーエッセイ◇
連載(41)=原規子=西部アマゾン日伯協会=浅黒い肌にしなる腰
連載(40)=東万梨花=トメアス総合農業協同組合=アマゾン加工食品の妙
連載(39)=加藤みえ=ボツカツ日本文化協会=ボツカツはははの一週間
連載(38)=中村茂生=バストス日系文化体育協会=「祖国」について思うこと
連載(37)=原田陽子=ピラール・ド・スール文化体育協会=「悔しい」気持ち
連載(36)=後田聡子=レシフェ日本文化協会 =いつかペルナンブカーナに
連載(35)=池田玲香=マリアルバ文化体育協会=子供と正直に向き合って
連載(34)=加藤志保=ピエダーデ文化体育協会=ブラジル―日本間で
連載(33)=今井さや香=コロニア・ピニヤール文化体育協会=村人の優しさに感動
連載(32)=中江由美=ポルトベーリョ日系クラブ=ブラジルのお盆
連載(31)=宇都宮祐子=Escola Professora Josephina de Mello(マナウス)=ひらがなや漢字を描く?
連載(30)=中村茂生=バストス日系文化体育協会=コロニアで聞く戦争体験
連載(29)=相澤紀子=ブラジル日本語センター=「サンタクルス病院にて」
連載(28)=辻 伸二=セルジッペ州日伯文化協会=歌と歩んだアラカジュの2年間
連載(27)=原規子=西部アマゾン日伯協会=「アマゾンに暮らす」
連載(26)=東万梨花=トメアス総合農業協同組合=パラエンセのスピリット
連載(25)=森川奈美=マリリア日系文化体育協会=書道に日本語は必要?
連載(24)=原田陽子=ピラール・ド・スール文化体育協会=日本の反対側の日本
連載(23)=今井さや香=コロニアピニャール文化体育協会=「ブラジルの空の下で」
連載(22)=池田玲香=マリアルバ文化体育協会=気づいた「日本人らしさ」
連載(21)=山崎由加里=特別養護老人施設あけぼのホーム=〃家族とのつながり〃
連載(20)=中村茂生=バストス日系文化体育協会=百周年に移民展を
JICA連載(19)=加藤みえ=ボツカツ日本文化協会=ボツカツから笑顔の風
JICA連載(18)=中江由美=ポルトベーリョ日系クラブ=「時の流れもお国柄」
JICA連載(17)=加藤紘子=クイアバ・バルゼアグランデ日伯文化協会=パンタナールに漂う空間に出会って
JICA連載(16)=宇都宮祐子=Escola Professora Josephina de Mello(マナウス)=料理アマゾナス風
JICA連載(15)=松岡美幸=パラナ州パルマス日伯文化体育協会=「人の温かみを感じる町」
JICA連載(14)=相澤紀子=ブラジル日本語センター=「何を残して何を持ち帰るのか」
JICA連載(13)=東 万梨花=トメアス総合農業協同組合=ブラジル人から学んだ逞しくなる秘訣
JICA連載(12)=森川奈美=マリリア日系文化体育協会=「笑顔の高校生達」
JICA連載(11)=原 規子=西部アマゾン日伯協会=元気な西部アマゾン日伯協会
JICA連載(10)=中江由美=ポルトヴェーリョ日系クラブ=「熱帯の中で暮らし始めて」
JICA連載(9)=中村茂生=バストス日系文化体育協会=「日本」が仲立ちの出会い
JICA連載(8)=加藤紘子=クイアバ・バルゼアグランデ日伯文化協会=日本が学ぶべきこと
JICA連載(7)=森川奈美=マリリア日系文化体育協会=「気づかなかった素晴らしさ」
JICA連載(6)=清水祐子=パラナ老人福祉和順会=私の家族―39人の宝もの
JICA連載(5)=東 万梨花=ブラジル=トメアス総合農業共同組合=アマゾンの田舎
JICA連載(4)=相澤紀子=ブラジル=日本語センター=語り継がれる移民史を
JICA連載(3)=中村茂生=バストス日系文化体育協=よさこい節の聞こえる町で
JICA連載(2)=原規子=西部アマゾン日伯協会=「きっかけに出会えた」
JICA連載(1)=関根 亮=リオ州日伯文化体育連盟=「日本が失ってしまった何か」