=最前線から
- ■連載(52)=中村茂生=バストス日系文化体育協会=積み重ねられる歴史
2006年7月27日(木)
バストスに来て二回目、任期中最後の卵祭りが終わった。去年まったくわからなかった祭りのひとつの意味が、今年は少しわかったような気がする。ちょうど去年の卵祭りが終わった頃、基礎知識もある程度頭に入り、機材も整ったので聞き取り調査を本格的に始めた。対象にサンパウロに出た方々も含め、ひとづてに探し当てては訪ねて歩き、バストス出身者の定期的な集まりがあるとわかってからは、そこへも毎回顔を出した。
そんなこんなで普通では考えられないほど大勢の人と短期間に知り合った。ありがたかったのは、仕事の内容を説明すると例外なく親切にしていただけたことだ。
しかしそんなふうに接していただくことで、限られたブラジル滞在期間中にもう一度お目にかかれる方はごくわずかだろうなというさびしい思いをどこかで味わうことにもなった。
ところが今年、祭りの間、この一年サンパウロで出会ったバストス出身の方々との、実に多くの再会があった。史料館を訪ねて下さる方もあれば、会場でばったり出くわした方もある。
情けない記憶力のせいでお名前を思い出せないという失態はあったものの、その数は十人を超えた。せいぜい一年ぶりでしかないのだが、期待していなかった分だけ、感じた気持ちはやはり強い懐かしさだったといってよいと思う。
それにしても話には聞かされていたけれど、これほどたくさんの人がここに戻っていようとは思いも寄らなかった。
自分でそんな経験をしながらあたりを眺めると、会場のところどころで同じような再会の場面が繰り広げられていることに気がついた。満面の笑顔で歩み寄り、握手し、抱擁し、肩を叩き合う人たちの多いこと。きっと去年もそうだったのだろうし、いつのころか卵祭りは、かつてバストスでいっしょに働き、スポーツをし、学校に通い、戦後の混乱を生き抜いたひとたちが再会し、こうやって懐かしさに身を浸してはお互いの健在振りを称えあう場となってきたのだろう。
考えてみれば祭りにはもともとそういう性格がある。重要なのはすべての町がそんな祭りを持てるわけではないということだ。その意味でバストスは幸せな町だ。
原野が切り拓かれ、人が住み始めて約八十年。卵祭りの再会の光景からは、人がここで暮らしてきたという確かな痕跡のようなものを感じた。ようやく人の一生分に届こうかというわずかな年月かもしれないが、こんなふうにしてだんだん積もっていったものが「歴史」と呼ばれるようになるのだろう。
◎ ◎ 【職種】史料館学芸員
【出身地】高知県高知市 【年齢】41歳
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